THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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地域SNSで、街の「こんにちは!」を増やしていく

虎岩 雅明さんの写真

高齢者の「パソコンプレックス」を解消すること。それが異世代間交流のきっかけづくりになる

NPO法人 TRYWARP/千葉市中央区

代表理事
虎岩 雅明さん(31歳)

1979年、大分県生まれ。2005年、千葉大学工学部修士課程修了。在学中の2003年、街の異世代間交流を目的に、学生が高齢者にパソコンを教えるサークル「TRYWARP」を発足する。翌年、NPO 法人に。2006年、西千葉の地域SNS 「あみっぴい」(アミーゴ+ピーナツの意)を開設。地域SNS の先駆けとして、全国各地からシステムの構築やコンサルティングを求められるようになる。このニーズにこたえるべく、2007年、潟gライワープソリューションズを設立。一連の活動は、ITやビジネス、経済分野の賞を多数受賞するなど、高く評価されている。現在、同大学大学院や千葉工大で非常勤講師なども務める。

西千葉の街で一人暮らしを始めた学生時代。珍しい名字のせいもあり、定食屋に3度も通えば、商店街のおじちゃん、おばちゃんたちから「トラちゃん」と声をかけられるようになった。顔見知りが増え、会えば「こんにちは」とあいさつくらいはする。田舎ほど濃密でもなく、都会ほど希薄でもない人間関係が虎岩には心地よかった。街全体がこんな空気になればいいな……そう思っていた。

大学院修了後の進路として、就職も考えた。しかし、会社人間になってしまうことに一抹のやるせなさも。そんな時、思い出したのが、高校時代にテレビで見たビル・ゲイツのこと。「属す」のではなく、会社を「つくる」という道が、新鮮かつ衝撃的でもあった。

起業しよう、と決めた。それも、この西千葉で。実は千葉大生の8割は県外出身者。しかも卒業すれば東京など県外に出てしまい、街に残らない。ゆえに地域に活力が生まれない。問題解決の第一歩は、学生(若者)と地元住民(中高年層)との異世代間交流を図ることだ。目指すは、街で「こんにちは!」を言い合える関係づくり。今どきの若者らしく、パソコンやネットを利用した事業を考えた。ただし、すべて「裏返し」の発想で。

そうして始めた事業が、なぜ今さらパソコン教室なんですか。

ただのパソコン教室ではなく、「クリック」も知らないような、超初心者の中高年層向け教室です。千葉大生が先生になって、高齢者にパソコンを教える。そこにひとつの異世代間交流が生まれるだろうと。確かに「今さらパソコン教室?」という声もありました。けれど実際に高齢者の方の声を聞いて、従来のパソコン教室とは、まるで異なるニーズがあると確信していました。それは、高齢者には「パソコンを使ってあれがしたい、これがしたい」といった「目的」がないということです。ただ、家族とパソコンの話題を共有したい、あるいは「死ぬまでに一度、パソコンを触りたい」といった(笑)、とても素朴な欲求だったんです。

教え方も独特だそうですね。

半年間・20時間の超初心者コースでは、クリックは「カチッ」、ダブルクリックは「カチカチッ」、ドラッグは「カチッ――パッ」という具合に。知識の習得より、パソコンに対する苦手意識、つまりパソコンプレックスをなくすことが第一ですから。2003年に始めて、今までに教えた生徒さんは延べ2万人。年齢層は40〜60歳代が中心です。卒業後も街で講師を担当した学生に会うと、「あら、先生。こんにちは〜」みたいな人間関係が生まれてきています。

その後、地域SNSも開設。

せっかくパソコン教室を卒業しても、日常的に使ってないと忘れちゃうんですね。素人のパソコンの使い途で、毎日楽しんでやれるものって「コミュニケーション」なんですよ。ちょうどその頃、mixiが話題になっていた。そこで異世代間交流のツールとして、西千葉の地域SNSがあってもいいんじゃないかと、システムの構築を始めました。ここでも、ネットに不慣れな中高年層に、拒否反応を起こさせないことを第一に考えました。結果、ネットの常識はすべて裏返すことになりましたね。

裏返すと、どうなりますか。

まず、プレオープン段階では、学生の入会を禁止しました。ネットに 慣れた若者文化が定着してしまうと、高齢者が入っていきにくい。だから「スレ」とか「トピ」とかいうネット用語も禁止。特にこだわったのは、本名と本人写真を使用するというルール。ネット特有の匿名性を排除して、コミュニティもネット上だけの架空のものは認めない。あくまでも現実社会で、住人同士が「こんにちは!」と言える関係づくりが主で、SNSは現実を補完するものと位置付けました。「出会い系」がネットからリアルへという流れなら、こちらはまずリアルありきの「出会った系」だと言えます。だから「OFF会」も、ここでは「ON会」になるわけですよ(笑)。

地域SNSの先駆けとして、かなり注目されているようですね。

全国各地から「うちでも地域SNSを構築したい」という相談がくるようになって、2007年には、NPOとは別にシステム構築のための株式会社も設立しました。おかげで自分たちで活動資金を集めることもでき、地域SNSの理念を広めることもできた。今、地域SNSは全国に約600もあるんですよ。ただ、メンバーが街おこしに熱心な中高年層に偏りがちになるという問題も出てきています。若者の参加を促すため、SNSがイベントを打ったり、積極的にオピニオンを発信すべきという意見もある。でもネット主導の人集めや街づくりって、当初の目的からすれば本末転倒だと思うんです。地域SNSの果たすべき役割は、リーダーではなくてコーディネーター。価値観の違う人同士の接点づくり、その根本である「街のこんにちは!」を増やすことに、僕たちは徹していくつもりです。

撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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