THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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「街は生き物」という視点から、斬新な手法で「寿町」を変えていく

岡部 友彦さんの写真

“モノ”をつくる前に“コト”を起こしてしまう。それが、本質的な地域再生のエンジンになる

コトラボ合同会社/横浜市中区

代表理事
岡部 友彦さん(32歳)

1977年、神奈川県生まれ。神奈川大学卒業後、設計事務所勤務を経て、東京大学大学院建築学専攻修了。2004年からFunnybee株式会社に参画。そこで、簡易宿泊所の一部を安価な宿に改装し、海外からのツーリストや日本人の若者などを宿泊客として呼び込むことに成功。2007年、コトラボ合同会社設立。寿町のプロモーションムービー制作や、「KOTOBUKI選挙へ行こうキャンペーン」のプロデュースなど、地域再生に向けて斬新なアプローチを続けている。

横浜市寿町。そこは東京の山谷、大阪のあいりん地区(釜ヶ崎)と並ぶ、日本三大ドヤ街のひとつ。「ドヤ」とは「宿」を反転させた通称で、全国から集まった日雇い労働者が暮らす、簡易宿泊所が集中する地域だ。戦後の高度経済成長を支える一方で、様々な事情を抱えた人間が流れ込む街――それが寿町だった。

だが現在の寿町に、往時のパワーはない。約250m四方の街に6500人が居住するが、うち半分が60歳以上の高齢者、さらに8割が生活保護の受給者だという。「○○荘」の看板を掲げた簡易宿泊所や、行政の福祉施設が目立つ。もはや完全に、福祉対象の街へと変わっている。外部からこの街とかかわる人々も、そのほとんどが福祉関係者だ。

岡部友彦もまた、街の外からかかわることになった一人。ただ、ちょっと変わっているのは、福祉畑ではなく建築畑だということ。が、いわゆる"箱モノ"には固執しない。街は生き物であり、周囲とつながり合う生態系の一部である。大学院時代に取り組んだ、この研究テーマに立つところから、岡部の補助金にもナントカヒルズにも頼らない、地域再生の試みは始まったのである。

寿町には以前から興味を?

いえ。大学院時代に友人に連れられて、たまたまNPO法人の人たちと知り合ったのがきっかけです。「さなぎ達」というNPOで、彼らの寿町での活動に興味を持ち、営利事業を行うための会社設立に参加しました。そこで、街に存在する簡易宿泊所の空き部屋を資源と見立てて、何か活用できないかという話になったのです。当時すでに、山谷でサッカーワールドカップに来る外国人に向けて安宿を提供する事業ができていて、そこと同じような流れを横浜でもつくることはできないかと。で、2005年から「YOKOHAMA HOSTEL VILLAGE」と称して、安宿事業を始めました。初めは1軒だけでしたが、現在は3軒の建物と連携して、約40部屋を旅行者向けに運営しています。宿泊者の4割が外国人で、6割が日本人という感じですね。

新しい流れは生まれましたか。

時期によって利用者は違うんですけど、横浜でコンサートなどが開かれる時は、ファンの女の子でいっぱいになって街がパッと華やぐんですよ(笑)。それと、迷っている外国人がいれば、街のおじさんたちがフロントまで連れてきてくれたり、そんなつながりも出てきています。リピーターも多く、海外から何度も来てくれる人や、国内でも地方から名産品を送ってくれる人なんかもいるんですよ。フロントでは、週1回、アーティストによるコミュニティカフェが開かれていたり、英会話教室なども行われています。街のおじさんや、近所のおばさんたちも参加して。いろんな人たちが自由に行き交う空間になってくれるといいなと考えています。

そもそも建築畑の人が、なぜかかわろうと思ったのですか。

大学院の研究室が、都市の活動を可視化し研究していくことをやっていまして。都市を生き物と見立てて俯瞰的に見ていくわけです。そうすると、車の流れが血液の循環にも見えたり、テナントの移り変わりが街の新陳代謝のようにも見えたり。そのような見方で地域を見ていくことに、とても興味を持つようになったんですね。そして大学院を修了する際に、たまたま寿町と出合った。それが、いい結び付きになりました。

福祉とは違う視点からの活動ですが、ほかにはどのような。

寿町に来て1年目に、地域の状況を発信していくプロモーションムービーをつくりました。この街は、特に周辺の人たちから非常に怖いイメージを持たれています。街の状況は変わっているのに、昔の印象が強いようなんです。そこでまずは、街の状況を見せながら僕らのプロジェクトを紹介するプロモーションムービーを作成したのです。イギリスの都市再生活動では、最近、行政がパンフレットなどとともに、映像でプロジェクトを紹介するんですよ。その方法をここでも活用できないかと思ってつくりました。ほかには、横浜市長選挙の際に、行政や自治会と一緒に啓発キャンペーンを行いました。生活保護を受けている方々は住民票を持っているので、この街には、非常に多くの票が眠っていると見ることもできるんです。それを可視化することによって、政治家にもこの街を違った角度から見てもらいたいと思ったのです。矢印形のポスターを600枚街中に張りまして、矢印の案内どおりに進んでいくと投票所に着くという具合です。カラフルな矢印ポスターで街を彩りました。投票率を上げるだけでなく、人々の街に対するイメージを少しずつでも変えていければと。今はまだプロモーション活動の段階ですが、これからも施設や補助金といった"モノ"に固執せず、"コト"を起こし続けていこうと思うんですよ。

撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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