THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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「ナナメの関係」のコミュニケーションで、高校生に刺激を起こす

今村 久美さんの写真

赤の他人とケータイを介さず語り合うこと。それが「挑戦する自分」を見つける、きっかけになる

NPO法人 NPOカタリバ/東京都中野区

代表理事
今村 久美さん(30歳)

1979年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学在学中より「コミュニケーションが持つパワー」に着目。若年層のキャリア教育に生かすべく、2001年、友人とともに任意団体「カタリバ」を設立(2006年にNPO 法人化)。学生ボランティアを中心とする大人が、高校生と自由に意見を交わし合うイベント系授業「カタリ場」を発案。都立の高校で試験的に実施し、生徒たちを活性化させる効果があることを立証した。2007年度より3年間、東京都の委託事業として年間約50校で実施。現在では、専門学校や大学、企業における教育・研修などにも広がっている。

新宿にほど近い中野の住宅街。入り組んだ路地の奥に、昭和の下宿風一軒家。ここが「カタリバ」のたまり場、いや事務局。既存のキャリア教育とは違う新しいアプローチで、高校生に自ら動きだす「きっかけ」を与えるNPOだ。

代表の今村久美も、かつては何かにつけ「つまらない」を連発するような、やる気のない女子高生だった。しかし大学に入ると、周囲は自分の力で何かをやろうとする、チャレンジングな学生ばかり。そういう気風のキャンパスに、刺激を受けた。初めて自分から「何かをやりたい」と思った。彼女を変えたのは「未知の人とのコミュニケーション」が持つ力だった。

かつての大人たちは、近所の子供たちと自由に、あるいは無責任にかかわることができた。それが若者たちの社会に対する知識、あるいはイマジネーションを広げる役割を果たしていた。だが今は?

高校生の人間関係は親や教師といった「タテの関係」か、同級生という「ヨコの関係」がほとんど。その先は一気に匿名の「ネットの関係」。では、ここに赤の他人の大人たちという「ナナメの関係」を、多少無理やりにでも挿入したらどうなるか?―こうして、カタリバの試みが始まった。

高校生に着目した理由は?

私自身、将来の夢もなければ、自分から何かをしようという意欲もない高校生だったんです。日米中韓の高校生を対象とした調査でも、日本の高校生は、自分には人並みの能力がないと思う、つまり「自己肯定感」に乏しいという結果が出ています。でも、そういう意識形成って、彼らを取り巻く環境に原因があると思うんですね。多くの大人たちが、いまだに「いい大学を出て、いい会社に入る」という過去の価値観の中にいる。学校教育でも同じような側面があるのは否めませんが、だからこそ、高校の教育現場で改善努力をされている先生方のサポートをしたいと思っているのです。

別の価値観や評価軸を見せる。

それに気付くような刺激を起こしたいのです。今は親と教師だけが子供にかかわっていい「有資格者」になっている。でも昔は、いろんな大人が怒ったり、褒めたり、働く姿を見せたり自由勝手にかかわって、自然に「いろんな生き方がある」ことを教えていたと思うんです。日本の高校生は自分の力で動きだす能力がないんじゃなくて、「きっかけ」がなかっただけ。未知の価値観の持ち主である「ナナメの関係」の大人と、ケータイではなく直接コミュニケーションすれば、変われるはず。それを高校の授業としてできたらいい。それがカタリバのスタートです。

しかし高校は教師の聖域です。

そうなんですが、先生方の中にも、私たちと同じ危機感とか問題意識を抱いていらっしゃる方はいます。ものは試しで、ある都立高校で「カタリ場」を開いたんですね。大学生や専門学校生のボランティアが60人くらい、体育館で高校生たちと車座になっていろんなことを語り合う。最初は照れたり、この授業をバカにしていたような生徒たちも、近所のお兄さん・お姉さん的ボランティアとなら、自然にコミュニケーションが成立する。その成果に一番驚いたのは先生方でした。これまで、授業中にペンを持つことすらなかった生徒が(笑)、授業を真剣に聞くようになったと。それから口コミで他校にも広がっていったんです。

成果は一過性のものでは?

以前、八戸の高校でカタリ場を開いたことがあります。廃校が決まっていて、しかも自己肯定感の低い学生が多い高校。地方って都市部とは逆に人間関係が濃いぶん、周囲が勝手にレッテルを張るじゃないですか。それで子供たちが委縮してしまう。私も地方出身ですけど、結婚した時、親に「離婚だけはするな、うわさになるから」って言われました(笑)。でもカタリ場の後、生徒たちの間に「何かを始めたい」という機運が生まれてきた。そこで先生が、「高校生がガイドする八戸観光ツアー」を企画したんです。するとたくさんの生徒が自らガイドを志願したんですね。その経験が学ぶ意欲にもつながって、翌年、その高校から国公立大学に36人も進学しました。「開校以来の快挙」だと。

今では大学生や社会人も対象になっているとか。

大学になじめず中退する学生が増えていて、引きこもりリスクが非常に高いんです。大学にとっては、以後の授業料が入らないという経営リスクでもある。企業や病院が、研修としてカタリ場を取り入れる事例も出てきていて、それだけ社会が病理的になっているのかも。ただ対象が誰であれ、大切なのは未知の人とのコミュニケーションから生まれる「新しい何か」。それがない社会では、「先生ウザい」「学校つまんない」とグチってるだけの高校生は、「課長ウザい」というだけの社会人になる。で、「おしゅうとめさんウザい」という奥さんになります―私のことじゃないですよ(笑)、もちろん。

取材・文/神戸 真 撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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