THE INNOVATION 志こそが人を熱くする

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「育児経験者による1対1の病児保育」で、親の負担を軽減する

駒崎 弘樹さんの写真

働く親たちを子どもの発熱で疲弊させないこと。それが日本人の生き方を変える、最初の一歩になる

NPO法人フローレンス/東京都新宿区

代表理事
駒崎 弘樹さん(30歳)

1979年、東京都生まれ。慶応義塾大学在学中の2002年、後輩に請われ技術開発系ITベンチャーの代表取締役に就任。その後、社会起業家へと転身。仕事を持つ親たちの切実な悩みであった病児保育の問題に着目し、2004年、NPO 法人「フローレンス」を設立。代表に就任する。翌年、日本初の非施設型・共済型の病児保育サポートサービスを開始。2009年、「日本ワーク/ライフバランス研究会」の共同代表に就任。子育てや家族にまつわる問題を、日本人の働き方の問題としてもとらえ、解決を目指している。

学生起業したITベンチャー。しかし、業界のマネー至上主義は駒崎の価値観とはまるで相いれなかった。悩んだ末に「もっと人の役に立つ、手ごたえのある仕事をしよう」という、青くさい結論に至る。具体的に何をしようかと考え始めた時、頭に浮かんだのが、ベビーシッターをしていた母から聞いた話。それは、熱を出した子どもの看病のため、たびたび仕事を休まざるを得なかった女性が、会社を解雇されたという話だった。

そもそも子どもは、熱を出すことで免疫能力を付けていくもの。だが通例として、保育園は園児が37度5分以上の熱を出すと預かってはくれない。だから母親が仕事を休んで看病する。それでクビになるのなら、子育てをするなと言っているに等しい。ならば、学生起業で培った経営の手法で、この「病児保育」問題を解決してやろう。コストのかかる施設はつくらない。行政からの補助金はもらわない。そして安定した収益を挙げる。方針を決めると駒崎は、NPO法人フローレンスを設立した。だが、一見ニッチなテーマに見えた「病児保育」こそ、駒崎をひとり親や貧困、雇用、日本人の働き方、そして地域社会の問題へと導く、回廊の入り口だったのである。

既存の病児保育サービスというのも、ありますよね。

あるにはありますが、ごくわずかです。そうした施設には行政から補助金が出ますが、逆に利用料を抑制されて構造的に赤字になってしまう。とりあえず母に、「俺の小さい頃はどうしてた?」と聞いてみたら、当時住んでいた団地の下の階の「マツナガさん」というおばちゃんに、時々面倒を見てもらっていたと。ならば、育児や保育経験のある女性にお願いして、ベビーシッターのように1対1で病児保育をしてもらったらどうだろう。調査のため、子育て中の女性たちから意見を聞きまくりました。人妻専門のテレアポみたいで(笑)、最初は怪しい若者扱いもされましたが、そのかいあってこのアイデアに自信が持てました。

どんなシステムなんですか。

サービスの提供は月会費制にしました。月に何回利用しても、しなくても、利用料は定額です。親御さんからすれば、掛け捨ての保険のような感覚ですね。お子さんが急に熱を出した場合、朝8時までにフローレンスに連絡すれば、必ず“こどもレスキュー隊員”と名付けた育児スタッフが自宅に来て、一日子どもの世話をしてくれる。その安心が買えるというのは大きい。もちろん、僕らの経営にとっても固定収入があるということは、大変心強いことですしね。

“隊員”の採用は、うまくいきましたか。

チラシ1万5000枚につき1件くらい、反響がありました(笑)。採用コストの割に、人が集まらない。一方で採用者の中には、この仕事で生活を支えたいという人もいました。当初の雇用形態は登録型。でも、安定雇用のニーズが強いのなら、いっそ希望者は全員正社員採用しようと。すると応募者が増えて、採用コストがぐっと下がった。雇用の受け皿として、社会貢献にもなる。コストはかさみますが、過剰な利益を求めないNPOならではの経営戦略です。

利用者のニーズにも、細かく対応されているようですね。

あるお母さんから言われたんですよ。「素晴らしい仕組みだと思う。でも私みたいにひとり親で、非正規でしか働けない人間には、この会費すら出せません」。ショックでしたね。共働きの親の収入を想定していたので。そこで昨年から、新たにひとり親限定の激安パックを始めました。このサービスのみの使途限定で、一般の方々から寄付も募っています。「病児保育のおかげで、派遣から正社員になれた」とか「子どもを責める気持ちが消えた」といった声を聞くと、時には社会に広く薄く協力を求めることも必要だと感じます。

病児保育は成果を挙げましたが、今後の目標は?

子どもにかかわることは、社会にかかわる第一歩だと思うんです。子ども、家族、地域、そして社会へと、人は段階を踏んで参加していくわけですから。特に地域コミュニティについて、僕には忘れられない出来事があります。それは高校時代、留学先のアメリカのウォルマートで見た光景。その壁には「ミッシング・チルドレン」、つまり行方不明になっている子どもたちの写真が、ずらりと並んでいたんです。地域社会というインフラがすさむと犯罪がはびこり、子どもたちがその犠牲になる。「日本をこうしちゃいけない」と、心底思いました。しかし、日本でもかつての自然発生的コミュニティは失われ、「一億総中流」という集団意識も崩壊している。今やるべきことは懐古ではなく、地域コミュニティを意識的に再構築することだと思うんですよ。フローレンスの病児保育は、「マツナガのおばちゃん」がいるコミュニティを、自分たちで新たに生み出していこうという試みでもあるんです。

取材・文/神戸 真 撮影/刑部友康 構成/内田丘子

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