NPO法人「育て上げ」ネット/東京都立川市
1977年、東京都生まれ。成城大学中退後、渡米。シアトルで学生生活を送る中、「若者を対象としたビジネス」に可能性を見いだし、日本で起業すべく再び大学を中退。帰国後、若者支援のための社会活動の道に進む。2001年、若年層の就労支援を目的とした任意団体、「育て上げ」ネットを旗揚げ。2004年、特定非営利法人となる。現在、引きこもりやニートの若者を対象としたセミナーやフォーラム、ジョブトレーニング・プログラム、高校における金銭基礎教育の特別授業などを通じて、若年層の就労や自立を支援している。内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員、厚労省「若者自立塾設立準備懇談会」委員。
http://www.sodateage.net/
物心ついた時から、家にはいつも家族以外の若い男女が20〜30人いた。それも登校拒否、病気、非行など様々な理由で社会的に排除された人ばかり。工藤の両親は、自宅で私塾的な更生施設を運営していたのである。だが、幼い工藤にとって、彼らは「ダメな人たち」どころか「いろんなことを知ってる兄ちゃん、姉ちゃん」だった。
大学時代はバイトに明け暮れ、金がたまると海外へ出かけた。やがて中退してアメリカに渡り、カレッジに再入学。そこでビジネス学科の友人から、示唆に富むアドバイスを受けた。「先進国では中高年がリストラされるような経済状況になると、若者が放置されてしまう。だから若年層に着目したビジネスで起業するといい」。
確かに日本でもフリーター、不登校、引きこもりなどの問題が顕在化し始めていた。帰国した工藤は、さっそく日本の若者の現状や、関連する政策のリサーチを開始。その過程で、若者対策を検討する国の委員会のメンバーが、50代以上の学者や研究者、大企業経営者で占められていることを知る。当事者たる若者が一人もいないことに、怒りを覚えた。20代の工藤が国の施策に関与するための唯一の手段―― それがNPOだった。
留学先では会計学を専攻していて、実はゴールドマン・サックスに入りたかったんですよ(笑)。成果主義のど真ん中に行きたくて。日本に戻った時も、普通に株式会社をつくるつもりで、国の若年層政策なんかを調べてたんです。ところがその政策を検討する委員会に、肝心の若者が参加していない。イギリスでは当事者3割参加という暗黙のルールがあるんですけどね。NPOで起業したのは、NPOの理事長になる以外、その場に参加する方法がなかったから。2001年に任意団体を立ち上げて、フリーターや引きこもりの実態調査をしたり、フォーラムを開催したりといった活動を始めました。それが目に留まったのか、厚労省の委員会に呼ばれたんですよ。これがきっかけで、現場の意見を政策に反映する道が開けました。
引きこもりやニートの若者が仕事に就く、それは社会の中に居場所を持つということです。就業しなければ、彼らの自立はあり得ない。その第一歩が重要なので、正規雇用にはこだわっていません。まずは生活リズムを改めてから、地域での奉仕活動や企業研修、農家のお手伝いなどを通じて、仕事を体験させます。それからが「就活」。地元の商店主さんから求人情報を出してもらったり、一緒にハローワークに行って職探しを手伝ったり。最近では、研修先の企業から「このまま雇ってもいいよ」と言ってもらえる例も増えました。
就職後のトラブル、例えばたまたま一度さぼってしまったことで職場に行きづらくなった、なんてこともある。そういうアフターフォローなんかも、雇用者、本人、NPOの三者が連携してやっていこうと。飲み会もよくやります。グチも聞けるし、「新入社員は上座に座っちゃダメ」とか、社会常識も教えられる。大切なのは人間関係を断ち切らないこと、二度と孤独に戻さないことなんです。
そういう既成の議論には乗らないようにしています。というのも、僕らが対象にしている若者って貧困家庭の出身が少なくないんです。高校より上の学校には、まず行かせてもらえない。自力で夢をかなえる可能性なんて、すでに閉ざされているわけです。だから、アルバイトでも何でも、彼らにとっては貴重なチャンスなんですよ。
もちろん、大卒で就職する若者はまだまだ圧倒的に多いし、「夢をかなえよう」というキラキラしたキャリア教育も盛んです。けれど、うちに来ている若者が「教師になりたい」という夢を持ったとしても、それは高卒では絶対かなわない夢なんですよ。そんな若者を「自己責任だ」で切り捨てるなら、この先、彼らが生活保護に頼り続けるようになって、社会保障制度が破綻した時の大増税も覚悟してくださいよと。若年層の就労支援というのは、もはやセーフティネットの領域であり、社会的投資なんだと僕は考えています。
NPOスタッフの多くは、30歳くらいで脱落してしまう。食っていけないんですよ、社会貢献では。実際、我が家も僕が中学生の頃まではド貧乏でした(笑)。でも、それでは活動自体が継続できない。うちのプログラムは、月額負担金4万円をはじめとして、基本すべて有料です。それも無理という家庭には、公的な機関を紹介しています。ボランティアでやるべき部分は残しつつ、NPO自身が「ちゃんと食べていける仕事」として自立する。それは働き方の多様性という観点からも、大切なことじゃないですか。
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