勇気と知恵を注入します!独立ビタミンの「増田堂」
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 第3回 起業するのは、「そんなあなた」です
些細な批判にも耐えられない小心者の私

 告白します。私、増田紀彦は筋金入りの小心者です。ヒゲを生やした風貌や、大きな声でポンポンとものを言う態度から、私のことを豪胆だと思う人も少なくないようですが、そんなことはありません。

 例えば、講演会やセミナーの後によくアンケートを取りますよね。「本日の増田さんのお話はいかがでしたか?」とか何とか。でも私は絶対に記入されたものを見ません。そんな勇気はありません。「ええっ、せっかく書いたのに、増田さん、見てないの!?」と、憤慨された方もいるでしょうね。ごめんなさい。

 私のスピーチは絶対役に立つという自信はあります。準備にも余念はありません。だけどパーフェクトにはならないものです。百しゃべれば、一や二の失敗はあります。聞き手が100人いれば、1人や2人には首を傾げられます。満点かつ万人受け。そんなうまい話がないことは、理屈としてはわかっています。でも、現実の声としてそれを突き付けられるのは、耐えられないのです。


むしろ、正論にとらわれ過ぎるのは危険

 正論を貫けば、どんな声にも耳を傾け、むしろ批判にこそ改良・発展のヒントがあるのだから大いにそれを歓迎すべし、ということになるでしょう。

 書きながら、つくづくそれが正論だと思いました。ですが、正論とは言い換えれば一般論のことではないでしょうか。それこそ万人に当てはまる正解なんてないと思うのです。

 私は、99人の称賛よりも、1人の批判にとらわれてしまうタイプです。そんな性分では、世の中を渡っていけないと考え、長年、強くなろうと努力し続けました。でも、小心は生まれつきのもので、本質は変わらないのです。そこで私は数年前から方向転換を図りました。攻撃を「受け止める」ばかりではなく、場合によっては「かわす」というふうに。

「自分が商品」。サービス業はもちろんですが、ものを売るビジネスだって結局はそうです。その商品を強化しようとするあまり、ぶっ壊してしまっては元も子もありません。前置きが長くなりましたが、今回は「起業するのは自分である。他人ではない」ということを話題にさせていただきます。


他人は、ヒントは言えても、正解は言えない

「会社をつくる予定ですが、社員を雇ったほうがいいでしょうか。それともひとりで始めたほうがいいでしょうか?」。例えばですが、こういう相談をする方がいます。当然のことながら答えられません。強いて答えるとすれば、「それは、あなたの事業を軌道に乗せるためには、どちらがいいのかという選択ですが、もっと根本的にはあなたが人を引っ張っていけるタイプかどうかだし、さらに言えば他人と一緒に夢を実現したいと思うか思わないかじゃないですか」という感じになります。

 ほかにも、いろいろと「何がいいのか? どっちがいいのか?」といった質問や相談をよく受けます。確かに、未経験の領域に踏み出そうとする際、先達や専門家に意見を求めることは必要でしょう。しかし注意してほしいのですが、先達はたいがい自分自身のケースで答えますし、専門家はたいがい一般論で答えます。「あなたの場合どうなのか」という観点での答えに出合えることは、めったにはないはずです。そりゃそうですよね。相手があなたの気質や性分や能力やキャリアや指向や理想を、完璧に把握しているはずはないのですから。


独立とは、適材適所を自分自身で遂行すること

 適材適所と言います。大きなグループの一員であれば、誰かがあなたのことをよく見ていて、あなたを生かす配置をしてくれるかもしれません。もっとも、それをしてもらえないから独立するんだ、というケースも多いですけどね。

 いずれにしても、独立するとなれば自分で自分を適所に配置するしかないのです。自分で自分の気質や性分や能力やキャリアや指向や理想を自覚して、それと合致する配置を実行することが起業・独立成功の秘けつです。

「でも、配置もへったくれもないでしょ。最初はひとりかふたりで始めるのだから」と思った人もいるでしょう。そうではないのです。「企業内に配置する」と思わないでください。「社会のどこに自分を配置するか」、です。

 営利重視型か、あるいはNPO型か。拡大志向かライフスタイル重視か。業界の川上か川下か。あれこれやるのか、ひとつの事業に特化するのか。前述したように、大勢でやるのかひとりでやるのか。プッシュ型の営業かプル型の営業か。都会でやるのか田舎でやるのか。自宅の中でやるのか別の場所でやるのか……。そして、何をやって何をやらないのか。

 こういった選択の積み重ねが、「社会の中のどのような位置に自分を置けば、適材適所になるのか」という課題への答えになっていくのです。

 仮にあなたがある会社に勤めているとして、そこで20年間研究職に就いていたとしましょう。ある日希望もしていないのに、経理部へ異動しろと言われました。「そんなのできないし、やりたくない」と思いますよね。当然です。独立も同じことです。できないことややりたくないことを無理にやろうとしたって、うまくいくはずがありません。


敵を知り、己をよ〜く知れば百戦危うからず

「独立するならこうすべき」。「起業したならああしなさい」。そんな言い分が世の中にはあふれ返っています。でも、そういう理屈を全部受け止めて、実行・実現できる人なんてそうはいないはずです。正論を取捨選択する勇気と冷静さを持ちましょう。それを実行するためには、自分の強みや弱みをちゃんと把握しておく必要があります。

 独立準備においては、狙う市場の分析やその攻略法をよく練っておくことが大事ですが、それ以上に大事なのが、「その市場を狙っている自分ってどんなやつ」かをよくよく認識しておくこと。でないと、自分に適した市場攻略法(要するに仕事の仕方)を確立することはできません。

 私、今年の8月で独立してまる20年になりました。アンケートに目を通すこともできない小心者でも、これくらいできるのです。もちろん、無為無策でここまで来たわけではありません。弱みを帳消しにするくらい強みに磨きをかけ続けてきたことと、弱みを隠さず、その弱みをカバーしてくれる仲間を尊重してきたことが良かったのだと思います。そしてこれからも、それを励行していきます。生まれつきの弱みなんて、そう簡単には克服できませんから。
Profile
増田氏写真
増田紀彦
株式会社タンク代表取締役
1959年生まれ。87年、株式会社タンク設立。97年、「アントレ」創刊に参加。以降、同誌および別冊「独立事典」編集デスクとして起業・独立支援に奔走。また、経済産業省後援プロジェクト・ドリームゲートでは、「ビジネスアイデア&プラン」ナビゲーターとして活躍。講演やセミナーを通じて年間1000人以上の経営者や起業家と出会う。現在、厚生労働省・女性起業家支援検討委員、中小企業大学校講師、(財)女性労働協会・女性起業家支援セミナー検討委員などを務める。また06年4月からは、USEN「ビジネス・ステーション」のパーソナリティーとしても活動中。著書に『正しく儲ける「起業術」』(アスコム)、『小さくても強いビジネス、教えます!起業・独立の強化書』(朝日新聞社)。ほか共著も多数。



 
   

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