THE REVENGE 逆境こそが人を強くする

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第5回 次々に立ちはだかる経営リスクと、どう闘い続けるか

阿川道仁さんの写真

危機は必ず乗り越えられる。
経営者に「自由」があるかぎり

今回のファイター

(株)アクセント 代表取締役

阿川 道仁さん (43歳)

東京都台東区

1965年、東京都生まれ。高校卒業後、ミュージシャンを目指し音楽学校に通うが、挫折。露天の花店を開業後、母親の手芸店を手伝うことに。その過程で経営やパソコンに関する知識と経験を身につけ、自らアパレル関係の事業を起こしたこともある。94年、おじが経営するインターネットプロバイダの会社を個人事業主・社内外注として手伝う。草創期のインターネット技術に触れた。98年6月、32歳で独立。Web サイトの制作とシステム開発を事業とするアクセントを設立。2001年に、アクセスログ解析ソフト「LogChaser 」発表。以後、顧客ホームページのアクセスログ解析やコンサルティングを事業内容に加え、強みを発揮している。
http://www.accent.co.jp/

阿川道仁は根っからの独立志向、いわゆる経営者タイプである。だからといって、無条件に神様から祝福されるわけではない。彼の記憶によれば、創業以来約10年の間に、大きな壁が4度はあったという。単純計算にして、実に2年半に一度の危機である。

最初の危機は起業直後にきた。売り上げの回収が社員の給与など固定費の支出に間に合わず、たちまち資金ショートしてしまったのだ。2度目の危機は、業績が好調になりかけた頃だ。大きな受注が入る目算もあり、阿川は思い切って社員を増やした。ところがその直後に肝心の受注話が白紙となり、切迫した事態に。社長に対する社員の不満が爆発し、毎日が針のむしろだったという。3度目は、開発と営業それぞれの部門で、右腕とも頼む人物が相次いで辞めた時。会社の開発力、営業力は一気に落ちた。そして、4度目はもちろん昨年後半からの金融危機。

放漫でも乱脈でもない経営をしてきた。なのに当然のような顔をして、次々とやってくる経営の危機。阿川は一体、どうこれらの危機を乗り越えてきたのか。そして、なぜ苦労の連続である「経営者」という仕事を続けていこうとするのか――。

設立当初から、いきなりつまずいてしまいましたね。

経験と信用の不足が原因です。収支のバランスはきっちり考えていたつもりでしたが、いざ実際に経営を始めると、思わぬ支出がかさむものなんですね。おまけに設立初年度なので、銀行がお金を貸してくれない。結局、資本金全てを食いつぶし、個人で借りられるだけ借金もしました。幸いと言うべきか、この時、社員の一人がプライベートな理由で辞めたんです。1人分の人件費が浮いたことと、徐々に仕事が入り始めたことで何とかしのげました。

上り調子になったらなったで。

大規模な案件が入るめどが立って、4人だった社員を半年で9人に増やしたのです。ところがその話はキャンセルになり、人件費だけがのしかかってきた。中小企業診断士に相談したら、社員を切るしかないと言われました。でも、それだけはイヤだった。そこで自分の給料を5割カット、社員には2割カットを提案しましたが、案の定、猛反発を食いましてね。最後は団体交渉みたいになって……。
結局、社員の残業代カット、昇給・賞与なしということで落ち着いたんです。2人の社員が辞めましたが、とことん話をして残ったメンバーが頑張ってくれたこと、当社初の商品「LogChaser」が完成したことで業績は持ち直しました。結局、その期は黒字決算で、昇給・賞与もカットしていた残業代の支払いもできました。

その次には、頼りにしていた社員のほうから辞められた。

営業力、開発力が共に落ちたのは痛かったですが、もっと困った事態が起きました。すでに顧客に納品していたシステムの仕様書を、これから完成させる約束になっていたことが判明したのです。この案件は辞めていった社員に任せきりでしたので、退職後もフォローしてもらう予定だったのですが、その本人が入院してしまい、音信不通に。そうなると、出来上がったシステムから仕様を明らかにしていくしかない。社内で手が回らないので外注しようとしましたが、こういうのは面倒な割に利益にならない仕事なので、みんないやがるんです。困り果てていたら、異業種交流会で知り合った人が事情を察して助けてくれた。ありがたかったですね。異業種交流会というと、ビジネスに役立ちそうな人とだけ付き合おうとしがちですが、それだけでは本当に困った時に力になってもらえない。経営者だからこそ、損得勘定を離れた人付き合いができなければいけないんだと、心底思いました。また、どんな案件も社員一人に任せきりにするのではなく、常にバックアップ体制を取っておく重要性もね。

そして今や世界中が危機。経営者というのは本当に大変な仕事ですが、辞めようと思ったことは。

ないですね。実は設立当初、役員から「楽しい会社」というのを社是にしたらどうかと提案されたんです。でも、そうしなかった。なぜなら、僕はもともと仕事が楽しかったからです(笑)。もちろん、社員全員が仕事を楽しめる環境にするには、努力が必要ですけど。加えて僕の場合、つらい状況を全力で乗り切っていくというのが、別の意味でこれまた楽しい。“変化”としてとらえているのでしょうね。つらくても食欲は落ちず、やつれもしない(笑)。まじめな話、なぜ経営者を辞めないのかといえば、「自由」があるからです。そこには顧客や社員に対する責任があり、大きなリスクも伴います。でも、そのリスクをどう乗り越えていくかっていうのも、経営者の自由なんですよ。それを愛し、楽しめるのなら続けられる。自由だからこそ、危機を乗り越えるために自分を変えていく、変わっていくことができたわけですからね。

取材・文/神戸 真  撮影/刑部友康  構成/内田丘子

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