先輩たちの独立事例集

先輩たちの独立事例集


高 加寿子さんの写真

地域医療格差を是正する
メディカルサービス会社

リブト株式会社/東京都八王子市
後藤 広明さん(35歳)

ごとう・ひろあき/大分県出身。大学卒業後、大手医療機器メーカーに勤務し、エンジニアを務めた後、マーケティングに携わる。12年間の勤務を経て独立。趣味はキャンプ。毎夏、家族で北海道を満喫している。2009年6月には3児のパパになる予定。

独立準備のがんばりどころ

まずは会社を設立し、1年間かけて事業の方向性をリサーチ

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資金調達のために大勢に会って自身の事業を発表している。それもみんなが応援したくなる事業でありたいという思いから。次のステップに向け、忙しい毎日を送る

医療機器メーカーに勤めていた時代、出会った医師は何百人といますので、医療の現場で医師が何に困っているか、よく見聞きしてきました。そのひとつがスキルアップのための学習機会・時間の少なさです。医療の世界は日進月歩で進化していますから、常に学習が必要。しかし、医療業界は職人的で「見て、盗んで、学べ」という世界。指導する習慣もあまりない。さらに、皆、激務のため学習時間を割くことさえも難しい。医師の学習機会の損失は、大きな問題だと考えていました。一方、前職でマーケティングも経験したことで、NPOなどの社会貢献活動をアピールしていく「コーズマーケティング」にも関心がありました。たとえば、名前の知れた大手NPOには寄付金が集まりやすいですが、アピールが下手な小さなNPOなどには集まりにくい。これを自分のマーケティングの経験を生かして何とかしたい。そう思ったんです。

そこで、メディカル事業とコーズマーケティング事業、どちらかでの起業を想定して勤務先を退職。事業の方向性がしっかり定まっていない状態で、自宅を拠点に、とりあえず会社を設立しました。会社設立後の1年間が、本当の意味での起業準備とリサーチ期間といっていいと思います。準備をしてから会社を立ち上げるのが、通常なんでしょうけどね(笑)。ドリームゲート主催のセミナーで、先輩起業家から、勢いをつけて走りながら学ぶ大切さを聞いていたので、悩んでいるよりもまずは動いて独立してしまえ!と。リスクが高いのは承知でしたが、そうしないと独立をしたいと思いながらも、ずっと独立しないままで終わってしまうと思ったんです。

セミナーを受講してノウハウを習得し、メディカル事業に絞り込む

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現在は自宅兼オフィスが活動の拠点であり、また、スタッフは多忙な時だけ手伝ってもらう体制で事業運営を行っている。「事業は小さく始めて少しずつ大きく」が後藤さんのモットーなのだ

メディカル事業で考えたのは、インターネットを活用した動画のWebセミナー。学習意欲のある若い医師はパソコンを使い慣れていますし、手術のテクニックを見せるには動画は打ってつけ。何しろ地域医療格差の是正につながりますし、ちょっとした空き時間を活用して学ぶことができます。セミナー講師を務める医師の人選や教える手法などは、前職の経験が生きました。エンジニア時代に全国何百人もの医師の手術に立ち会った経験があるので、多くの医師が独自のノウハウやテクニックを持っていることを知っていたわけです。しかし、医師本人は自分に強みがあることに気づいていない。その強みを医師に認識してもらい、講師として協力してもらう体制を構築。同時に、ドリームゲート運営の「ネットショップ・プロコース」も受講し、Webサイトのつくり方からSEO対策、インターネットを活用した広告手法などを習得しました。

また、地元商工会議所主催の「創業塾」で起業に関する様々なノウハウを学習。これを受けて良かったのは、コーズマーケティング事業のリサーチ先となる行政や教育機関などを紹介してもらったことですね。これらの機関やNPOなどを数多く取材し、Web上で取材記事などもアップ。事業の柱となるかどうか検証していきました。しかし、メディカル事業に関しては自分の強みを生かし、事業を伸ばしていける確信が持てたのですが、コーズマーケティングに関してはリサーチしていく中で、自分に強みがないことを痛感。また景気に左右されやすい事業だということもよくわかり、メディカル事業一本に絞り込むことを決断。ただし、自社の社会貢献活動の一環として、頑張っているNPOなどの紹介は続けていくことにしました。

ビジネスコンテストで受賞。アジア展開に向けて、一歩前進!

2008年7月に、医学動画セミナーのサービスを開始。同年10月にはネット検索結果と連動して上位表示するリスティング広告を出稿し、本格スタートさせました。ここまでくるには、さすがに大変でしたね。当初は、飲食店チェーンなどで行われている携帯電話を使った顧客満足度調査の仕組みを応用し、小規模病院向けの顧客満足度調査を行うことで食いつなぎながらリサーチを兼ねる計画でした。ところが、これが大失敗。ある調査で「医師はわかりやすい説明をしているか?」という質問に、医師8割が「できている」と回答したのに対し、患者は3割しか「できている」と実感していないという結果が。病院側は現状に対する問題意識が薄いんです。現状ではニーズが顕在化しておらず、予想以上に時間がかかることがわかりました。計画は皮算用に終わり、最初に用意した運転資金も早々にショート。保有していた株を売却したり、事業パートナーとなった医師から出資を受けたりと綱渡り状態。それでも続けられたのは、自分を信じていたからだと思います。

現在は33本のセミナーを用意し、受講者数も計画通りに増加中。セミナー科目の充実とアジア展開も視野に入りました。そのためには、自分ひとりで事業を続けるのは困難。人材拡充資金を調達するためにベンチャーキャピタルなどにアピールしたいと、ドリームゲートの「ビジネスグランプリ2009」に応募。ビジネスプラン発表ができるファイナリストに選ばれれば御の字と考えていたのですが、なんとグランプリを獲得してしまった(笑)。当社の事業を十二分にアピールできる機会となりました。日本の地域医療格差の是正だけでなく、医療技術がまだまだ未熟なアジア各国の人々を助けられるよう、このチャンスを大いに生かさねばならないと思っています。

取材・文 / 石田 恵海 撮影 / 加納 拓也

ちょっと気になる10問10答

  • なぜ独立した?

    もともと独立心が強いほうだったんです。新入社員の時も、3年くらい勤めたら独立しようと思っていました。30歳を区切りに独立も考えたこともあります。でも結局、何だかんだと12年間も勤務。仕事自体、面白かったですしね。独立に向けて自分の背中を押してくれたことは、ふたつあります。上司のある言葉から、勤め人としての行く先が見えてしまったこと。もうひとつは、起業セミナーで聞いた先輩起業家たちの言葉。「独立するかどうかは最終的には勢い。走りながら少しずつ事業を大きくしていった」と聞いて、最初からカンペキな事業を始めなくてもいい。まずは勢いだと。そこで、とにかく独立して試してみようと決断しました。

  • 開業資金は?

    100万円です。資本金に充てました(現在は増資)。パソコンとプリンターの購入費、法人登記のための手数料で合計30万円。残りの70万円は運転資金です。

  • 開業資金はどう集めた?

    すべて自己資金です。退職金の一部を充てました。

  • 周囲の反応は?

    両親は猛反対で、母親は寝込んでしまいました(笑)。唯一、身内で応援してくれていた妻が両親を説得してくれたというか、なだめてくれましたね。前職の同僚からは「いつか独立すると思った」と言われました。どうやら、飲み会などで酔っぱらうと「俺はいつか独立する」としょっちゅう話していたようで……。そんな発言、僕はまったく覚えていないんですけど(笑)。

  • 不安だったことは?

    会社員を辞めてしまうと、安定した生活がなくなるということは不安でしたね。だから退職するまでの12年間、独立に躊躇したわけでしょうけど。ただ、自分でもできることはひとつくらいあると信じていたので、起業に対しての不安はありませんでした。

  • 役立った情報源は?

    ドリームゲートが開催していたセミナーや地元商工会議所開催の「創業塾」。また、横浜ベンチャーポートの情報も役に立ちました。あとは、やっぱりインターネットですね。類似した事業がないかどうか調べたり、海外のWebサイトを調査するなどフル活用しました。

  • 相談相手は?

    友人であり、現在は社外取締役にもなってもらっている医師の方々。前職時代、医療機器の開発を一緒に行ったチームメイトのような存在で、医師は何に困っているかなど医療業界の問題点よく聞かせてもらっていました。また、ドリームゲート主催のセミナーでは、同世代でちょっと先を行く先輩起業家を見つけては声をかけ、色々と聞き回っていました。

  • 独立して一番困ったことは?

    会社員時代には考えなくてもよかった健康保険や年金、決算など、届出、申請、手続きなど何もかも自分でやらなくてはいけなかったことです。改めて会社員時代は、本当に多くのことに守られていたのだと実感しました。

  • 独立して一番良かったことは?

    良かったことだらけですね。最初の喜びは、医学セミナーの動画配信を開始し、まだ広告も打ってもいない状態にもかかわらず、2週間足らずで申し込みがあった瞬間。協力してくれた医師と共にガッツポーズでしたよ。以前はエンジニアをしていましたから、自分のプロダクトによって0が1になることは、何事にも替えられない喜びがあります。また、一歩会社から出ると、世の中にはデキる人がうじゃうじゃいるんだということを知ったことも喜びですね。起業したことで、これまで会ったことのないようなデキる人たちに会える。これは楽しいですよ!

  • 独立を志す人へのメッセージ

    たとえば、ある目的地に行くために電車に乗ったとします。電車の中ではまだ目的地は見えないですが、電車が動きだせば景色が見えて、どんどん目的地に近づいていきます。でも、自分が動いて電車に乗らないと、いつまでたっても目的地にはたどり着けません。これは起業でも同じなんじゃないかと思います。目的地はまだ見えなくても、自分が動けば景色は変わり、目的地に少しずつ近づいていく。動けば状況が変わります。アイデアがプランに変わったり、助けてくれる人が現れたり、別の道を発見できたり……。迷ったらまず動いてみる、やってみる。これ、独立を迷っている人に一番伝えたいことです。

設立
2007年12月

資本金
996万円

従業員数
3人

年間売上高
非公開

アクセス
http://www.livet.jp/


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