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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第141回・効率化の代償

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ロボットが配膳するようになったファミリーレストラン(ファミレス)や、カーシェアで使用される自動車、インターネット通販などで、「ある共通するトラブル」が起こっているようです。便利になった代償としてそうなってしまったともいえるのですが、さて、そのトラブルとは一体どのようなことでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

世の中のあらゆることがどんどん便利になっていきます。一言でいうと「デジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいる」ということでしょう。デジタル技術の力を使うことであらゆるところで効率化が進み、生産性が上がったり、私たちの働き方も大きく変わっています。

クイズで取り上げたロボットが配膳するファミレスも、カーシェアのサービスも、インターネット通販も、全てDX化が進んだことで生み出され、発展しているものといえます。

しかし、便利になった裏で思わぬ弊害が生じたり、副作用ともいえるようなことが起こってしまうケースもあります。今回はそうした「思わぬトラブル」に目を向けてみたいと思います。

それでは解説します!

DX化を進めようとすると、業務プロセスを大幅に変える必要が出てきます。実はそこに「落とし穴」があるのではないかと私は考えています。なぜなら、効率化が進む一方で、「見落とされてしまう仕事」が出てくるからです。

例えば、配膳ロボットの導入によって働く人は配膳を行う必要がなくなり、その時間を別の仕事にあてられるようになります。しかし、それは店員が各テーブルに足を運ぶ回数が減るということでもあります。

実は先日、小学生と一緒になじみのファミレスを利用することがあったのですが、子供たちが「このお店は前よりも汚くなった」と口を揃えるのです。聞けば、以前に比べてシートが汚れていたり、テーブルの下に食べカスやゴミが落ちたままになっていることが多いのだといいます。いわれてみて納得しました。そしてそれ以降、他のお店でも同じことが気になり始めたのです。

それはひとえに、店員が配膳などのついでにさっとゴミを拾ったり、汚れに気付いてパッと拭いたりするような作業そのものが減ったからでしょう。そうした「名もなき仕事」が、効率化によって消えてしまった…ということではないかと思うのです。

カーシェアについても似たような話があって、「車が汚れている」というクレームが増えているのだそうです。

レンタカーの場合は、次に借りる人がきれいな状態で使えるよう、お店の人がきちんと掃除をしてから次の人に貸しますよね。しかし、カーシェアの場合はビジネスモデル上、そうはいきません。車がきれいな状態で使えるかどうかは、いうなれば「前に使った人の善意」に委ねられてしまっているわけです。

結果的に、車そのものは満足に使えたとしても、それ以外のところも含めた時に「サービスレベルが下がってしまっている」といわざるを得ない状況になっているのです。

サービスレベルの低下は商売において致命的なトラブルである

少し前に話題になったので覚えている人もいるかもしれませんが、あるECサイトで充電ケーブルを買ったところ、箱を開けたら商品のかわりに同じ重さの「土」が入っていた、というニュースがありました。

これは、商品だけを抜き取って同じ重さの土を入れて返品する「返品詐欺」の影響によるものでした。ECサイト側が返品された商品の中身をチェックせずに店頭に戻したため、土が入った商品がそのまま流通してしまったからだそうです。

こうしたことが起こってしまった背景には、ECサイト側のチェック体制の甘さがあるでしょう。スピードを重視するあまり、「重さが一緒なら同じ商品だろう」という判断のもとで中身を確認するフローを飛ばしたからです。

こうしたことが起こってしまうこと自体が、サービスレベルの低下を意味しており、信用が揺らぎかねない事態だといえます。

サービスレベルの低下は商売をしている人にとっては致命的ともいえるトラブルであり、決して甘く考えてはいけません。

「見落としてしまったもの」がないか、今一度確認を

配膳で店内を歩くついでにちょっとゴミを拾うような「名もなき仕事」がなくなったり、ちょっとした確認フローを省いたことが、サービスレベルに大きな影響を与えかねない…というのが今回のお話でした。

効率化が進み、いろいろなことが便利になるのは確かにありがたいことですが、それを進めることで「見落とされてしまっているもの」が間違いなくあります。

今回は3つの業界の事例を取り上げましたが、皆さんのビジネスでも思い当たるようなことはないでしょうか?ぜひ考えてみてください。もしくは、思い切って顧客や利用者の声を聞いてみたりするのもいいかもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「サービスレベルが低下している」でした。もしかしたら近い将来、配膳だけでなくお掃除を行うロボットが一緒に店内を駆け巡るような状況になるかもしれませんね。それはそれで賑やかになり面白そうです。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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