「人を喜ばせながら、自分も幸せになるというのが私の夢でした」
にこやかにそう語るのは、心理学者であり実用書作家としても活躍する内藤誼人さん。内藤さんはビジネス心理学の第一人者として、ビジネスの現場で活かせる心理学的テクニックを本にして多くの人に伝えています。
内藤さんは時に「ブラックな心理学者」と評価されることもあるそう。
しかし彼にとってはそれすらも“人を幸せにする”ためのブランドのひとつ。独立して作家や講師として働くことで、こどもの頃からの夢を実現させています。
今回はそんな内藤さんが実践した夢を叶える方法や、起業・独立を成功させるための重要なポイントについてインタビューしました。
そこには心理的テクニックは元より、内藤さん自身の人間性がなせるワザが光っていました。
心理学者になったのは“人を幸せにする仕事”だと思ったから
――現在、内藤さんは心理学の専門家としてビジネス書を出版されていますね。大学で心理学を専攻していたそうですが、いつ頃から心理学に興味があったのでしょうか?
こどもの頃から興味がありましたね。
“人を幸せにする仕事がしたい”という目標があり、人の心に寄り添えるような学問は何だろうかと考え、行き着いたのが「心理学」でした。
心理学そのものが好きだった、というよりは自分の目的に結びつく学問が「心理学」だったというわけです。
ちなみにもし心理学者になれていなかったら、宗教家になっていたかもしれません(笑)。占い師やカウンセラーのような仕事もそうですが、とにかく悩んでいる人の話を聞くような存在になりたかったんです。
――こどもの頃の目標を見事に叶えたのですね。
目標を達成できれば本当にどんな仕事でも良かったんですよ。人の幸せにつながっていれば、ね。
小さい頃からの夢をそのまま仕事につなげたほうが、成功する可能性は高い。やっぱり人間はやりたいことなら熱意をもって積極的に取り組めますから。
私もその通りで、“人を幸せにしたい”という動機から心理学を学び、本を書きました。そして作家として独立。アンギルドという会社を設立して、作家やセミナー講師、大学の教員など、自分のやりたいことはひと通りやらせてもらっています。
仕事は人が運ぶもの。「人当たりの良さ」が成功を引き寄せる!
――はっきりした夢を持っていたとはいえ、独立後、自分の力だけで仕事をしていく上では何かと不安があったのでは?
確かに独立して成功を収めるのは、そう簡単なことではありませんが…。
実は、どんな業界・業種でも共通して“成功をつかむ人”の特徴が、研究データとして明らかになっています。
成功・失敗を分けるものが何かと言うと、「人当たりの良さ」です。専門知識や技術に違いがあろうとも、最終的に成功を決定づける要素の85%は実のところ人間関係。それぞれの仕事に必要なスキルなんてものは、15%程度にしかすぎないのです。
私はそのエビデンスを知っていたので、それだけで安心感がありましたし、実際に人付き合いを大切にしながら仕事に取り組んできました。人当たりを良くしているだけでうまくいくことがあるんですよ。本当に。
――確かに、こうしてにこやかな内藤さんと話していると、とても気持ちの良い方という印象を受けます。心理学で学んだことを、実際にビジネスの場にも活かしているのですね。
そうそう(笑)。意外にもビジネスチャンスというのは人が運んできてくれるもので、現に私が実用書作家としてデビューしたのも、人との付き合いがきっかけでした。
私はもともと本を書きたいという夢もあったので、在学中から誰も読まないような心理学の本を書いていました。
そんなある時、お酒の席で大学院の先輩だった方にそのことを話したところ、ちょっと見せてくれ、と。
その先輩が私の原稿を出版社に持ち込んでくれて。共著という形で、行く当てのなかった文章が本になって世に出ることになりました。道を拓いてくれた先輩には今でも感謝しています。
――そういう経緯があったのですね。良好な人間関係と同時に、やはり自分のことをアピールすることが重要なのでしょうか?
やりたいことをやっていると、どこかに必ずそれを拾ってくれる人がいる。人付き合いを大切にしていると、ありがたいことにそんなチャンスも巡ってくるんです。
私はやりたいことをどんどん人に話します。人前で話すのが好きだということを人に言っていたら、講演会やセミナー講師として呼んでもらえました。大学の講師もそう。英語の本を訳すのが好きだと話したら、翻訳家としての仕事ももらえて。
何でもやりたいことは口に出して言っていると、意外に夢は叶うんです。こどもみたいですけど、はっきり言葉にしなければ周りの人には伝わりませんからね。起業にしろ、普通の職場にしろ、まずは自分のやってみたいことを口に出してみるのがいいと思います。
”ブランディング”は周りが勝手につけてくれるもの。
――内藤さんは作家だけでなく講演をしたり翻訳をしたり幅広く活躍されていますが、自身のブランディングを意識するようなことはありますか?
ブランディングというのは自分で作っていくものというよりは、人が勝手につくり上げていくものだと思っています。
私自身がわかりやすい例なのでお話しましょう。自分で言うのもなんですが、私は自分のことをとても人当たりの良い人間だと思っています(笑)。
しかし本のイメージからでしょうか、世間では私のことをとても姑息でブラックな心理学者だと思っている人が多いみたいです(笑)。
だから私はそういう「キャラ」でやっていくことにしました。
セミナーなどでも「今日は皆さんが知りたがっている『小細工』を教えに来ました」と言うと、みんな笑いますね。
困っている人・悩んでいる人が求めているのは抽象的な観念ではなくて、実践的にすぐに取り入れられるようなアドバイス。
そこで私は心理学的にビジネスで役立つようなテクニックをお教えするわけです。
端から見ると、「アイツはずる賢い『小細工』を教えているぞ」となります。でもそれは私が気にすべきことではないので、逆にそれを利用して「キャラ」作りをするんですよ。
――本来は“人を幸せにしたい”という思想から始まったことなのに、内藤さんはむしろ”腹黒さ”を売りに変えてしまったのですね!
どうやらそのようです(笑)。本当は心理学の他にもガーデニングや昆虫採集が好きですし、そういう本も書いたことがあるんです。
でも、当たらない。そうしていろいろなことに手を伸ばしてみた結果、当たりだったのが「ちょっとブラックな心理学者」というキャラだった。それが自然と私のブランディングになったんです。
――なるほど、ブランディングは人が決めるとはそういうことなんですね。
そうです。そもそもブランドというのは、他の人が評価したものに刻印を焼き付けたのが始まりですから。
「○○に詳しい人、○○に強い会社・店」というのは他の人が決めてくれます。周りがブランディングしてくれます。自分からいくらブランディングしても、世間が認めてくれなければ意味がありません。
ですから、独立したてなら最初はとりあえず手当たり次第やってみるのもアリだ、と。そのうちのどれかを評価してもらえたら、今度はそれを自分の「強み」にしてブレずに究めていく。それが、私が実践したブランディングの方法です。
人生は一度きり!「夢」があるならチャレンジしてみよう
――それでも独立して良かったと感じますか?
そういうことは、往々にしてよくあることだと思いますよ。ですが私の場合は、“人を幸せにする”という縦糸が通っている。独立した業態として仕事をしていくために、人々に受け入れられやすい形に広がったというだけです。
でもやっぱり、人間はやりたいことをやっている瞬間が一番幸せですから。「熱意」も成功を引き寄せる強力なエネルギーとなります。私もやりたい仕事をさせてもらっているわけですので、こんなにありがたいことはありません。
ある程度の年齢がきたら、ボランティアのようなことをしようかとも考えています。それこそ困っている人を助けたり、何か悩んでいる人の相談に乗ったり。
――どれも“人を幸せにする”という原点につながっているのですね。それでは最後になりますが、いずれ起業・独立したいと考えている人たちにメッセージがあればぜひ!
独立して自分の力でやっていくということは、人生を左右する決断ですから、誰でも怖いことです。しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ず。多少のリスクが取れないようでは何事もうまくいかないものだと思います。
時には失敗してしまったり、思い通りに行かなかったり。そう簡単に良い方向に進めるわけではありませんが、人生は一度きりですからね。やらないで後悔することがないようにしたほうが、幸せになれるのではないかと私は考えています。
後悔には2種類。やってから後悔するのと、やらずに生まれる後悔。同じ後悔だとしても、人間はやってから後悔するほうが尾を引かないものですから、やったほうがいいと私は思います。
そして何より、やりたいことを仕事にできる幸せを皆さんにも味わって欲しい、というのが私の願いです。
心理学者。慶應義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了。
大学院在学中より専門の心理学を活かした執筆活動を開始し、卒業後に有限会社アンギルドを設立。
心理学を企業活動に応用する「ビジネス心理学」の第一人者としてビジネス書を多数出版している。執筆活動のほかにも大学講師、企業訓練や講演、翻訳など幅広く活躍中。
著書には『すごい!ホメ方』(廣済堂文庫)、『「人たらし」のブラック心理術』(だいわ文庫)、『人は暗示で9割動く!』(だいわ文庫)など。