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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方。第3回・夢を売る

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方。第3回・夢を売る

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです

Q.自動車の機能についての問題です。1978年に本田技研工業が発売した、当時の最新技術や装備を搭載した人気乗用車・プレリュード。1982年11月に発売されたその2代目には、今では考えられない驚くべき機能が搭載され、当時の若者(特に男性)を熱くしたといいます。さて、その機能とは一体どのようなものでしょうか?

さて、答えとその理由はわかりましたか?
今回は、選択式ではありませんので、頭を働かせていろいろと想像してみてくださいね。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

以前、本田技研工業の開発担当者と話をした際に、面白い話を聞きました。トヨタとホンダでは、車に対する考え方が違うんだという話です。

彼が言うには、トヨタは下駄としての車、つまり移動するための足となる自動車を作っているが、ホンダは「欲望の塊」を作っているんだというのです。

つまり、同じ車であっても、全くアプローチが違うというわけですね。

たしかに車の値段を考えてみても様々です。100万円程度で買える乗用車があれば、一方でその3倍も4倍もする高級車もあります。

単純に移動するための道具として車を捉えた場合、わざわざ高い車を選んで買う必要は本来はないはずです。しかし、実際には高級車はたくさん売れていて、町中でもたくさん見かけます。

ここから1つ言えるのは、安い乗用車を買う人と高級車を買う人とでは、求めるものが違うということです。つまり、高級車は自分のステータスの象徴であり、「私はコレだけのものを持っているんだ」という大きな「夢」を車に投影している・・・そんなふうに言えるのではないでしょうか。

この「車」と「夢」の話を踏まえてトヨタとホンダの話に戻ってみると、今回のクイズの答えが見えてきそうです。

それでは解説します!

さて、ホンダの開発者が言うところの「欲望の塊」とはどういう意味でしょうか。それは、発売当時の時代背景を考えると見えてきます。

1980年代といえば、まさにバブル期。モテる男性の必須条件に「車を持っていること」が挙げられる時代でした。欲望とはつまり、「モテたい」という男性の夢のことだったのです。

「欲望の塊」としての車を作っていた当時のホンダが、モテたい男性のために当時の人気車種のプレリュードに搭載して話題となったのが、男性が女性を口説くプロセスを自然に前に進めるための「運転席から助手席のリクライニングシートを倒せる」という衝撃的な機能でした。

今ではあり得ない話かもしれませんが、その時代には多くの男性に受け入れられ、モテたい一心の彼らはこぞってプレリュードを買ったと言います。まさに「夢」を売るためにたどり着いた、1つの企業努力の賜物だったわけです。

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消費者が求める「夢」を見つけることがビジネスチャンスに

同様な話は、化粧品でもあります。

これは資生堂の商品開発の人から私が聞いた話ですが、資生堂では化粧品ではなく「女性の夢」を売っているんだというエピソードです。「50歳なのに美しい私」という消費者が描く夢を具現化しているんだということですね。

そして、この視点で世の中のモノを見渡してみると、あちこちに同様のアプローチで商売しているものがあることに気付くはずです。

つまり、商売というのはモノを売る訳ですが、大事なのは「夢」を売ることなんだということです。その視点を持っておくと、世の中のビジネスチャンスに気付けるはず。そこが今回のお話のポイントです。

そして、それは時代によって変わっていくものでもあります。まさにプレリュードは私が20代の頃の話で、その頃の若者はモテたくて車を買いました。今の若者の発想とはちょっと違うかもしれませんが、狂乱のバブルの時代にあったこの話は、発想の起点として今の時代にも十分に有効だと言えるでしょう。

世代別にどんなアプローチが可能か?

「夢を売る」というアプローチを考えた場合、その方法は様々ですが、ここでは一例として世代別の夢について考えてみましょう。

たとえば、以下のようなものが想像できそうです。

●20代・30代
リスペクトされている私、若さの象徴である私

●40代・50代
成功者としてステータスを築いた私、若く見られる私

●60代以上
まだまだ現役の私、社会とつながる私、若く健康でいる私

すごく大雑把な括りですが、一例として挙げてみました。それぞれにどんなアプローチが有効か、考えてみるヒントになるかもしれませんね。

世の中の法則やルールを自分なりに考えてみよう

かのスティーブ・ジョブズ氏が、ペプシコーラの社員だったジョン・スカリー氏をアップル社にスカウトする際、「あなたは一生、砂糖水を売り続けるのですか?」と説得したという有名なエピソードがあります。

その話をコカ・コーラ社の幹部と話していた際、その人は私に言いました。「コカ・コーラは砂糖水に加え、あるものが入っているんです」と。

ここまで読んでくださった方は分かると思いますが、もちろんコカ・コーラには「夢」が入っているんです。コカ・コーラとはアメリカの象徴であり、アメリカンドリームを想起させるものだというわけですね。

今でも例えばアジアなどの新興国に行くと、現地メーカーが作ったコーラは日本円で18円くらいで売っているわけですが、その土地の若者たちはその3倍近い値段のするコカ・コーラをあえて買って飲むわけです。そして、「今はまだ社会の底辺の方にいる自分だけど、いつかアメリカに渡って大きなチャンスをつかむんだ」という夢をコカ・コーラに重ねているわけです。

「夢にお金を出す」というのは、希望があっていい話ですよね。

いかがでしょうか。ぜひ「夢を売る」という発想を参考に、皆さんも大きなビジネスチャンスをつかんでくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「運転席から助手席のリクライニングシートを倒すことができる機能」でした。バブルの熱狂を象徴するような、とはいえコンプライアンスにうるさい今ではなかなか考えにくい、時代を想い起こさせる機能ですね。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。

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