永久保 喜也さん(80歳)
VOL.166演歌に乗ってハサミを握る。お客を招きカラオケ大会も
職人根性を押し付けたらだめ。
お客さんこそ財産です
地
元の中学を出て、職安を尋ねたら理容師の住み込みの仕事を紹介してもらったんです。私は手に職をつけたかったし、理容師はちょうどいい仕事。そこから年季奉公です。本当は、記者になりたかったの。それで今もこうやって、店内のポップを全部手書きしたりしてね。パソコン打ちの字が1つもないお店です。
上京して、1960年にはホテルニュージャパンの理容室のチーフになりました。高級店ですから各界の名士がやってきて、歴代総理だけとっても、岸さん、福田さん、中曽根さん。そこで腕を磨いて、東京オリンピックのあった年に自分の店を構えました。高級ホテルで活躍したという前評判のおかげで本当に忙しかった。朝飯を食べ損ねると昼まで食べられないから、小さなお握りとわかめのスープを作って店の奧に置いとくんです。お客さんの顔に蒸しタオルを乗せて、トイレに行くようなふりをしてお握りをほおばる。
ある程度の腕を身につけた後は、お客さんの扱い方のほうが大切になる仕事です。職人根性で、ここはこうだと押し付けてもいけない。髪の毛も頭もお客さんのもの。お客さんを見て、お客さんのやりたいことをやってあげなくては。「どこを切ればいいんだろう?」というような頭の人でも、喜んで切ってあげる(笑)。そうして「ほかの人に頼む気がしない」と言ってくれるようなファンができれば、長く働けるでしょう。ファン作りのコツですか? お客さんにはもちろん礼節を尽くしますが、他人行儀は求められていないし、おっかなびっくり触っていると神経を使わせてしまう。「楽しい話をしてるうちに切り終わったな」ぐらいがいいんです。私は歌が好きでね。気の合ったお客さんを呼んでカラオケ大会をしたり、その映像をDVDに焼いて渡してあげたり。昭和の歌謡曲のリクエストも受け付けています。ストックは800曲以上。これもファン作りの1つですよ。
アントレ2016.秋号 「定年無用!独立老師が語る退かない人生」より