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両親の死と子どもの障がい。苦難を乗り越え設立したコーヒー豆焙煎所『縁の木』白羽玲子オーナーの覚悟と天職

両親の死と子どもの障がい。苦難を乗り越え設立したコーヒー豆焙煎所『縁の木』白羽玲子オーナーの覚悟と天職

町のコーヒー豆焙煎所『縁の木』。特に気にしなければ美味しいコーヒー豆を提供してくれるお店といった感じですが...実はとんでもない覚悟で建てられたお店でした。

今回は乗り越えた壁の数だけ強くなったといった表現がピッタリな白羽さんにお話うかがってきました。

親は先に死ぬ。突きつけられた目前の問題

白羽さん

―まずはコーヒー豆焙煎所『縁の木』を作ったきっかけからうかがえますか?

白羽さん
―白羽
はい。実はコーヒーをやろう!となったのは、『独立しよう!』と決めて動き始めてから道半ば…いや、道八割くらいのところで決めたんですよ。
そーとー遠回りしたんですけどね。実は。

と、白羽さんは飄々と語ってくださったんですが、転機と決断、そして独立までの道のりは中々な波乱万丈っぷり。

  • 超就職氷河期に人事志望で大手印刷企業に入り、なぜか営業に
  • にも関わらず成果を出し、仕事が楽しくなった頃に実父の逝去
  • 気に入っていた職場を離れ出版社の営業に転職
  • そして結婚と実母の死。二児の出産

ちなみに上記まででまだ序章です。

ここから始まった白羽さんのジェットコースターのような独立までの経緯に、取材陣は一時言葉を失ってしまいました。

白羽さん
―白羽
父の死がキッカケではありましたが、当時の私は転職した先でそこそこ上手くやってたんですよ。それこそ「これが天職だ!」なんて思えるほどに。

で、長男が生まれて、次男が生まれて…。当時次男はあまり手がかからなくて楽だなーって思ってたんです。

でも2年8カ月くらいして、あれ?おかしいな。ただの育てやすい子じゃないのかな?って思うようになって。

きっかけは名前を呼んでも反応しなかったり、うなづかなかったりしたので、もしかして耳が聞こえてない? と思い病院に連れて行ったんです。

で、診断の結果『自閉症』でした。

―自閉症...。たしか、完治は難しいとか。

白羽さん
―白羽
ですね。療育のような訓練でやりとりをスムーズにできるようになることはあっても、基本治るってことはないんです。

唯一の支えは母がよく遊びにきてくれて『わたしも面倒みるから大丈夫だよ』なんて励ましてくれたことでした。母が長男を世話してくれて、私が次男を世話する…といった感じで。

母を頼りになんとかやれるかなと感じていたんですが、そんな矢先に母が脳内出血で突然亡くなってしまったんです。

―・・・なんと言ったらいいか...言葉がありません。

白羽さん
―白羽
ですよね。でも、私の場合そこで決心が固まったんです。『親は子供より先に死ぬ』と悟ったというか。。。なら子供に全力を注ごう!となった感じですね。

もちろん現金を残すことも考えましたが、それより私が死んだ後も続く「子どもの人生」のために、働く場所と「手に職」を残してやろうと思ったんですよ。

限られた選択肢。選んだのは...紅茶?だった

白羽さん

―いや、もうなんというか。途中、言葉が出ませんでしたが、それでコーヒー豆焙煎所をやろうと?

白羽さん
―白羽
実は、それからすぐに決断して動いたかというとそうではなくて。やっぱり気持ちを切り替えるのに1年くらいはかかりました。

とにかく調べて、迷って、考えて、また悩んで。

母の一周忌に『カタチは決まってないけれど独立しようと思う』と親族にいったのが、決意を口に出した最初だったと思います。

―事業内容はまだわからないけど独立するってことを先に宣言したんですか。珍しいケースですね。

白羽さん
―白羽
たしかに、珍しいかもしれませんね。

でも、これから子どもが生きる数十年間、国や自治体からの支援が延々と続く保証なんてないですし、とにかく子供ができる仕事を残しておきたいという思いが強かったんです。

実は当初、割と本気で『紅茶でやろう』と思ってたんですよ。諦めちゃいましたけどね(笑)

縁の木

この時白羽さんは、とにかく『独立して事業と場所を子どもに残す』と決め、以下を基準に事業の骨格を決めていったんだそう。

  • 既存の(障がい者が通う作業所などで作られた)商品と競合しないもの
  • 既存の商品と相性の良いもの
  • 他の障がい者が通う作業所での売上増にも繋がること

作業所に多かったクッキーやケーキなどの製造販売業との相性から、飲料を商材として選択。

当初は自分でもある程度わかるものを。ということで「紅茶」を選択するも、いざ製造方法を(紅茶農家まで行って)教わってみると工程の多さと複雑さ、そして子どもたちの学区内+自宅の近くで店を構えるには家賃の制約から広い土地の確保が難しかったので断念。

そこで挫けずに、『じゃあ紅茶じゃなくてコーヒーにしよう』だったそう。

なるほど。道八割…ですね。確かに。

白羽さん
―白羽
気持ちの切り替えは早いです。そして早いほうが良いんです。だからコーヒーに転換してからは、自閉症の子が得意なことと苦手なことを調べました。

事故の心配が少ない焙煎機を探したり、一回の失敗量を少なく、かつ繰り返し作業がしやすい少量焙煎機を選んでそれを使っているお店に実際行って学んだり…。

なんとか『縁の木』をオープンさせられたのが、つい2年半前の事です。

縁の木

―すごい行動力ですね。現在、お店は好調ですか?

白羽さん
―白羽
ようやく赤字が出ないところまできました。

現状はお店の直売より、企業のノベルティや営業の手土産用に作るドリップパックなど。BtoBの売り上げのほうが多いです。

他の障がい者施設と連携して作る「クッキー&ドリップパックの詰め合わせ」とか。私が仕事をとってきて、それを他の施設とコラボしながらやっていく。なんて仕事も増えてきています。

詰め合わせセット

実は以前から企業のメセナ活動、社会貢献の観点からニーズはあったものの、施設側の提案や企画が慣れておらず難しいという実情があったそうです。

請求書作成や商品梱包など、作業が困難で中々上手くいかないケースも多かったという「課題を抱えたマーケット」において、白羽さんは丁度いいポジションなのだとか。

いやはや、強い方です。本当に。

今だけではなく、未来へ続く『縁』を大切に育てるということ

―現在の事業形態を聞いていると、やはり前職である営業の経験が活かされているのかな?なんて感じてしまいますが、実際どうなんでしょう?

白羽さん
―白羽
営業スキル…なんて良くわからないものより、振り返ってみるとやっぱり『縁』がいちばん大切かなと。今更ながらに感じています。

当たり前の話かも知れないですが、やっぱりすぐに利益に直結する相手とだけ付き合って、それ以外を切り捨てていては縁は広がらないと思うんです。

結果、未だにかつての同僚や上司、取引先さんが私に話を振ってくれますし、それがなんとか私がまだやっていけている動力だったりします。

白羽さん

白羽さん
―白羽
今じゃなくても未来のために、ゆっくり縁を育てていく。そのための苦労を早めにする。

それが私の考え方で、生き方で、だからこのお店は『縁の木』なんです。なんて、ちょっとキレイにまとめすぎましたかね(笑)

と、少し照れながら素敵な言葉でインタビューを締めくくってくださった白羽さん。あらためて、素晴らしい方に出会えたと感動してしまった取材でした。

願わくば、これから目の前に困難が立ちふさがった時、白羽さんのように真っ直ぐに行動を起こしていきたいものですね。

白羽さん、お忙しい中本当にありがとうございました。

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