世の中には、ありとあらゆる商売がある。
どんな商売も工夫ややりようで繁盛させることはできるはず。
そこで、一見もうけることが難しそうな意外な商売を繁盛させたり、長続きさせている先輩にそのポイントを聞いた。大いに参考にしてほしい。
「紙バンド」で自社ビル建設!/
松田裕美さん
元は米袋を縛るためにつくられた紙製のバンド。これを手芸用にカラフルに着色し、「クラフトバンド」と名づけてネットショップで販売する会社を2006年に設立した松田裕美さん。
材料の販売だけでなく、同年に一般社団法人クラフトバンドエコロジー協会を設立し「クラフトバンド手芸講師」を養成する通信教育事業も行っている。その「クラフトバンド実技講座」は、当該講座において唯一、文部科学省認可を受けている。
これまで修了者は約3000名。「この3000名はそれぞれ教室を運営しているが、材料は当社から買ってくれている。最近、全国に3000名の営業担当者がいるのと同じだと気がついた」と松田さんは笑う。協会は「クラフトバンドを習いたいので講師を紹介してほしい」といったユーザーの声を受けて設立し、信頼性を得るため社団法人化したが、これが本業の強力な追い風となった。
その結果、創業10年で自社ビルを2棟建てるまで成長させている。
へそくりの7万円でネットショップ開業
松田さんが紙バンドの手芸に出合ったのは、20年近く前。
長男の小学校の保護者会で手芸をすることになり、あるママ友が紙バンドでつくるバッグを紹介した。「専業主婦で時間はたくさんあったので、500円でバッグやカゴがつくれるのはいいかもと興味を持った」と振り返る。友人知人の誕生日などの際、つくったカゴに地元の野菜を入れてプレゼントした。
「大いに喜ばれて、これはすごいとハマった」と松田さんは言う。その後、自宅に遊びに来たママ 友に作品を認められ「教えてほしい」と請われる。その人を通じてほかの人にも広まり、公民館などあちこちで教えるように。3人目のこどもの出産時に病院でも編んでいたら、病院から「出産祝い用に使いたい」と要望され、大口の注文が入る。「それまでボランティアでやっていたが、追いつかなくなった。ママ友に手伝ってもらい、ビジネスとしてきちんとやらなければと考えた」と言う。
しかし、編み方を少ししか知らず、それで商売することに逡巡。そこで、紙バンド手芸の第一人者のもとに通い、さらに世界の編み物を研究し100通りの編み方を開発した。これがその後の協会設立や教則本の出版にもつながる。
一方、材料の手芸用紙バンドを売っている店はなかった。「地元にこれだけやりたい人がいるなら、全国にもたくさんいるに違いない」と考えた松田さんは、ネットショップの開設を思いつく。開業資金は、ためたへそくりの7万円。近所でパソコン教室を開いていた人に頼み込んで3万円でサイトをつくってもらい、残りで買えるだけの紙バンドを仕入れた。
すると、SNSの手芸コミュニティーに知られることになって徐々に売れ始める。仕入れていた大手メーカーの紙バンドは7色しかなく値段も高かったので、メーカーを探し独自開発に踏み切る。「主婦の小遣いでたくさん買えるようにと、大手の半額や3分の1といった値段で売ったのがヒットにつながった」と松田さんは言う。
途中、プチ起業をやっかむママ友のいじめに遭った。「悔しさが推進力になった」と打ち明ける。
松田裕美さん(51歳)
撮影/田部雅生、刑部友康、坂井みゆ
アントレ2019.春号
「紙バンド、中古ラジカセ、草むしり 意外な商売 意外に繁盛」より