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融資or出資、あなたに向いているのはどっち? 創業時の資金調達問題を、税理士が解説!

融資or出資、あなたに向いているのはどっち? 創業時の資金調達問題を、税理士が解説!

コロナ禍で厳しい経済現状を体感している方もいるのではないでしょうか。しかし、新型コロナに負けずこれから創業しようと考えている方も多いでしょう。
創業にあたり、どれくらいお金が必要でしょうか。

「かかる費用は0円? それとも1000万円? 独立開業の「数字のリアル」を税理士が解説」

こちらの記事でもお届けしましたが下記のとおり、近年では500万円未満の小資本で事業を始める方が増えてきているようです。

○ 開業費用の分布をみると、「500万円未満」の割合が40.1%と最も高く、次いで「500万~1,000万円未満」が27.8%を占める(図-13)。「500万円未満」の割合は、調査開始以来、最も高くなった。
○ 開業費用の平均値は1,055万円と調査開始以来、最も少なくなった。
出典:日本政策金融公庫 「2019年度新規開業実態調査」~アンケート結果の概要~

私も税理士という立場から「自己資金だけだと開業資金が足りないので、融資か出資、どちらで調達した方がよいですか?」といった相談をよく受けます。

特に大きな違いとして挙げられる、融資は返済が必要で、出資は返済不要ということはご存知の方も多いでしょう。

結論を先にお伝えすると、

資金調達という目的だけなら、融資がいいか出資がいいかはケースバイケース
・事業の存続可能性を高め、成長スピードを早めるのであれば、融資+出資の両方を検討するべき

それぞれにメリット・デメリットがあります。
今回は調達太朗さんが会社を設立するにあたり「融資」500万円、「出資」500万円、あわせて1,000万円を資金調達した場合、さまざまな局面でどのような違いがあるのか、ストーリー仕立てにしてお送りします。

融資とは何か、出資とは何かをそれぞれ比較することで両者の本質を掴んでいただければと思います。

1 経営支援編〜調達太朗、成長に悩む

ラーメン店のオープンを夢見る調達太朗さん。太朗さんは修業時代にコツコツと貯金してきた300万円と銀行からの500万円、修業時代お世話になったラーメングループ社長の出資二郎さんより500万円の出資を受けました。

合計1,300万円を元手に、港区三田に株式会社太朗フーズ(事業内容:ラーメン屋)を設立しました。太朗さんは、店長経験はあったものの社長になったのは初めて。日々わからないことだらけです。

オープン1カ月目はなんとかお店も回っていたのですが、3カ月目から突然客足に伸び悩んできます。これからどうしようか悩んでいたところ、銀行の担当者である全沢曲樹さんと、株主である出資二郎さんから太朗さんの携帯へ着信がありました。

①融資編

銀行の担当者である全沢曲樹さんからの電話に出ると、今後、何かあった時の備えとして、定期積金として毎月5万円積み立てないかと勧められました。
調達太朗さんは今、それどころではなく銀行の担当者に客足が伸び悩み、将来不安があることを相談しました。
すると全沢曲樹さんは、飲食業に詳しく経営相談ができる税理士と、助成金に詳しい社会保険労務士の先生を紹介してくれました。

(解説)
銀行はあくまでお金を貸してくれる機関なので、経営に対して積極的な介入はしません。
ですが……。

・銀行から資金調達をすると基本的に会社に担当の方が就いてくれます。
・決算の時など定期的に訪問したり業況伺いに来てくれたり、定期預金やクレジットカード発行を勧めてくることもあります。
・金融機関における本業支援により「売り上げ向上や製品開発の支援」また「取引先企業の売り上げ向上や利益向上、企業の付加価値向上につながる支援」が期待されます。

最近では、事業承継先の候補探しや、節税のために税理士等の専門家を紹介してくれることもあります。

②出資編

株主の出資二郎さんからの電話は、店の宣伝のために知り合いのグルメ雑誌の編集者や、グルメ番組のディレクターを紹介してくれるとのことでした。
ついでに出資二郎さんの仲間を大勢連れていくので、店の予約ができないかとのことでした。

(解説)
・出資のメリットのひとつは、株主が経営に協力をしてくれるケースがあることです。
仕事につながる人脈の紹介や、直接仕事を紹介してくれることもあります。
※これは誰が株主になるかによって変わってきます。
(主に、エンジェル投資家と呼ばれる個人投資家、親会社やグループ会社、友人・知人・家族)

・一方で、デメリットにもなり得るのが株主による経営介入です。
株主は出資割合によっては会社の株主総会において、議決権を行使することにより会社の重要事項を決定することができます。特に恐ろしいのが、役員の選任・解任権です。

2 利子・配当編〜調達太朗、恩返しする


お金を融資する側・出資する側は、出した金額以上にお金をもらいたいのは同じです。それでは、お金を借りた側・出資を受けた側はどのように返していくのでしょうか。

融資と出資ではそれぞれの考え方が違いますので、まずは基本的なスタンスをおさえましょう。「融資」はあくまでお金を“貸す”+利子をつけて返ってくる(究極会社がうまくいかなくても、担保なりなんなりで貸した金が返って来ればよい)と考えます。

「出資」はお金を“投資する”(上手くいけば配当金をもらえるけど、投資した金は返ってこないこともある→だから経営に関していろいろ口出しをしてくる)と考えます。
それでは、調達太朗さんのストーリーをみていきましょう。

飲食店を開いてから1年が経ち、調達太朗さんも順調に経営が軌道にのってきました。
そろそろ創業時の恩を少しずつ返していきたいなと考えていた矢先に、太朗さんの携帯電話に着信がありました。

①融資編

電話の相手は、借入先である大東京中央銀行担当の全沢曲樹さんでした。
「今月から元本の返済が始まるので、返済日の前日までに口座の残高を確認しておいて下さいね」とのことでした。

調達太朗さんは創業時に借りた際、軌道にのるまで銀行への返済は毎月利息だけで、元本の返済は1年据え置きで良いことになっていました。

太朗さんも経営が順調なので、返済を繰り上げるため当初の元本の倍返しをしたいとのこともお話しましたが、残念ながら、全沢曲樹さんに丁重にお断りされました。

いよいよ今月から、元本の返済が始まります。

(解説)
・銀行の借り入れは、2つの返済方法があります。
①分割返済する方法(期間1年~10年の中で毎月分割返済する形が一般的)
②返済期限に全額一括で借り入れを返済する方法
・「据置期間」といって元金部分の返済を行わず、利息分のみを返済する期間を取ることも審査により可能です。
・元本の繰り上げ償還といって、約定の返済期間より短くすることも可能な場合があります※銀行にとって融資目標額や利息等の収益が減少するため嫌がられることもあります。

②出資編

株主の出資二郎さんからの電話は「最初の出資額500万円の10%、つまり50万円をこれから毎年配当を出して欲しいな」と言われました。

調達太朗さんは経営が軌道にのってきたので二郎さんにも早く恩返ししたいけれど、従業員の手当も良くしたいと思ってます。

結局、太朗さんは、少し考えてからまた連絡しますと伝えて電話を切りました。

顧問の税理士先生に聞いてみたところ、”純資産”が少ないので、今は配当することはできないよと言われました。
しかも、配当は会社の税金の計算上、経費にならないから、それだったら今は従業員さんに還元してあげたら良いのではないかなとアドバイスを受けました。

(解説)
・出資を受けた調達太朗さんは、基本的に「配当」をだすか、自分が持っている「株式譲渡」をすることで経済的な利益を得ることができます。
・株式会社の純資産額が300万円を下回っている場合は、剰余金の配当を行うことができないことになっています(会社法第458条)。
※「純資産」とはざっくり「資産」総額から「負債」総額を差し引いた残りのことを言います。

3 返済編〜調達太朗に訪れた青天の霹靂

調達太朗さんは、コロナ禍に負けず何とか頑張ってきました。
しかし、不運にも交通事故による入院により、2か月の休業を余儀なくされてしまいます。

1カ月の固定費(人件費・地代家賃等)は約200万円。
今月末に支払いが迫っており、資金繰りが苦しい状況です。

どうしようか悩んだあげく銀行の全沢曲樹さんと、株主の出資二郎さんに相談することにしました。

①融資編

銀行の担当の全沢曲樹さんに今月の借り入れの返済が苦しく、また従業員にも給与は出さないといけないため、なんとか追加の借り入れができないかと正直に相談することに。

すると全沢曲樹さんからは「調達さんは今まで一度も支払いの遅れがなく返済頂いてきましたけれど、退院後のお店の業績見込みは如何でしょうか?」と言われ、結局のところ元本の返済猶予を勧められました。

しかしそのペナルティとして、今後1年は新規の借り入れが厳しくなると条件も追加されました。

今後の借り入れができないことに不安を感じた太朗さん。そこで「そうだ、相続で引き継いだ土地・建物を担保に追加の借り入れができないだろうか」と、急いでその旨を伝え、借り入れを懇願したところ後日1,000万円もの借り入れの承諾がおりました。

(解説)
・よく銀行は「晴れた日に傘を差し出し、雨の日には傘を取り上げる」と言われます。
銀行に一度返済実績(信用等)を作ってしまえば、再度の借り入れも比較的にしやすいといえます。雨の日に困らないように(業績が下降したときや資金繰りが苦しいとき)、晴れの日(業績がいいときや創業時)のうちに借りておくことが大事です。

・逆に返済が苦しいときは、経営改善や経営再建に力を貸してくれることもあります。
お金を貸したにもかかわらずお金が返ってこなくなったら、銀行としても困ってしまいますから、経営再建のためにいろいろと手を尽くしてくれることでしょう。

・また「リスケジュール(略してリスケ)」といって、銀行に相談することで返済のスケジュールを見直してもらえる場合があります。ただし、リスケ中は新たな借り入れができなくなります。
※コロナの特例により新たに借り入れできる場合があります。

・不動産や販売商品を担保に出すことで、銀行は追加の借り入れに応じてくれることがあります。

②出資編

不運が重なり出資二郎さんも時同じくして、自ら経営する会社の経営が一時的に悪化。当初の出資金500万円全額を一括で返金してくれないかと懇願されました。

振り返れば、出資二郎さんの出資がなければお店も開業できませんでした。
太朗さんとしても何かと良くしてくれた二郎さんに恩を感じていたので、どうにか返済を考えましたが、残念ながら一括で返済する充てはまったくありません。

結果的に、調達太朗さんの友人が追加で500万円の出資をしてくれることが決まり、何とか危機を脱することができました。

(解説)
・出資金は借り入れと違い、基本的に返済不要です。出資の払い戻しは、会社の債権者(銀行等の借入先)を害する恐れがあるため、基本的に認められていません。
・出資を受けているという信頼により、他の方からも出資を受けられることがあります。融資もそうですが他銀行が貸しているという理由で事実上審査が通りやすくなることも。まさに、信用が信用を生む状態と言えます。

ただし一方で融資の場合、借入先の返済が滞ったりすると遅延情報が他銀行にも共有されてしまう可能性がありますので注意が必要です。

まとめ

ここまでケースごとに融資と出資の違いについて、比較してきました。
まだまだ細かい違いはありますが、ざっくりと本質はつかめたのではないでしょうか。

以上のポイントを踏まえつつ、個人的に皆さんに留意していただきたいのは2つのポイントです。

①融資と比べた場合、出資について「返済の義務がない資金」なので、最悪返済する必要がないからと軽く考えがちです。
基本的には「出資者は出資した金額以上のリターン(配当・優待・株式の譲渡益の経済的リターンや経営への参加等のリターン)を期待」しています。そして期待をしている以上、人によっては経営についていろいろ意見をされる方もいらっしゃいます。
このように出資する方と出資を受ける方、お互いにとってwin-winの関係を構築するのは、結構大変だなという印象があります。
その点融資は期日通り返済し、利息を納めれば良いのですからドライですね。

※あくまで立ち上げの資金だけ借りて「経営は自分の手でやりたい」という強い意志をお持ちの方は、融資の方が向いているかもしれません。

②また出資・借り入れともに調達が成功するとなぜか気が大きくなり、かえって無計画にお金を散財してしまった結果、資金が枯渇してしまい、銀行や株主から取り立てられるということもあり得ます。これは本当にあるあるですので、ご注意ください。

また個人的には創業期に出資により資金調達をした方は、融資も併せてすることをおすすめします。これは出資ですと、追加で資金が必要な時に調達するのに時間がかかってしまうからです。何かあった時に必要なお金は確保しておいて損はないでしょう。

また融資も出資も必要ではなく独立・起業される方ももちろんいらっしゃいます。例えば自己資金でスタートできるビジネスの場合や、毎月の売り上げから経費をまかなえ、今後大掛かりな投資も必要ない方などが挙げられます。
なるべくお金をかけずに開業することも、1つの選択肢と言えます。

融資も出資も、どちらも事業の存続可能性や事業の成長スピードを高めるためにとても有効な手段であることには変わりありません。それぞれのデメリットにきちんと向き合ったうえで、うまく活用していけるとよいでしょう。

文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介


<プロフィール>
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。

高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。

合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。

ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。

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