スタイルのある生き方へシフトしたいビジネスパーソンのためのニュース・コラムサイト。
検索
起業家・先輩から学ぶ

「それは楽しいのか」人力車夫として独立した綱田琢が大切にしてきた「軸」

「それは楽しいのか」人力車夫として独立した綱田琢が大切にしてきた「軸」

働く上で、最も大切にしていることは何ですか?

報酬ですか?
職種、仕事内容ですか?
一緒に働く仲間ですか?

独立する人はたくさんいますが、
最も大切にしていることは、1人ひとり違います。

今回お話を伺ったのは、綱田 琢さん。

「自分が楽しいと思えるか」「仲間と一緒に楽しめるか」を軸に、
高校を卒業後、保育士から人力車夫で独立し、
仲間とともに人力車会社を立ち上げ。
最近では劇団にも参加されています。

「楽しいかどうか」を軸にどう仕事を変遷してきたのか、お聞きしました。

<プロフィール>

綱田 琢さん
人力車会社「壱」 代表
劇団「東京アフロ」 プロデューサー兼俳優

高校卒業後、専門学校に2年通って保育士の資格を取得し、
20歳で保育士になる。
3年後に保育士を辞め、ひとり海外にバックパックの旅に出る。
帰国後に人力車夫として独立。
2014年9月に、人力車会社「壱」を設立。
2018年には劇団「東京アフロ」にプロデューサー兼俳優として参加。

「楽しいかどうか」を軸に、保育士から人力車夫へ

-現在に至るまでの経緯を教えてください。

綱田さん

高校では硬式野球に没頭していました。高3の夏の甲子園予選が終わった後、先生から「ところで進路はどうするんだ?」と聞かれ、はじめて高校卒業後の進路のことを考えるようになりました。

自分としては大学に進学する気はなく、高校を卒業したら社会に出よう、と漠然と考えていました。そんな頃、たまたま母に連れられて、ボランティア活動をしに近所の保育園に行くことがありました。

保育園で子どもたちと一緒に遊び触れ合っているうちに「その場に行くだけで、こんなに喜ばれる仕事は他にないのでは。これは楽しそうだ。保育士になって、子どもたちに何かを伝えたい」と考え、保育士になろうと決めました。

この頃から「楽しいかどうか」が自分の行動の原点になっていたと思います。自分自身が「これは楽しい」「こうしたら面白い」と捉えたことは躊躇せずに取り組むようになりました。

-その後はどうされたのですか?

綱田さん

高校卒業後、私は保育士の専門学校に入学。2年通って勉強して資格を取得し、保育士として働き始めました。

保育士の仕事は楽しかったのですが、それ以外にも「楽しそうだ」「面白そうだ」と思えるものがあれば、どんどん挑戦していきました。

1年目には「子どもたちを守るために」とキックボクシングに挑戦。スパーリングで眼底骨折になり入院してしまい、運動会に出られなかったというハプニングを経験しました。この時は「何のために保育士になったのか」と悩みましたが、母から「失敗の先には必ず喜びがあるんだよ」と励まされ、ビビらず思ったことを行動していこうと決めました。

その後も有給休暇を使ってヒッチハイクでどこまでいけるかに挑戦するなど、「楽しい」「面白そう」と感じたことには躊躇することなく挑戦していきました。

そんな私を見て、ある日友だちから「このままでいいのか? もっと外の世界を見てみれば?」と言われたんです。その一言がきっかけで、3年働いた保育園を辞めて、海外にバックパックの旅に出ました。

-バックパックの旅では、何が見えましたか?

綱田さん

そこで見たのは、日本人が海外の人たちに自分を表現することを嫌う姿でした。海外の人たちはいろんな国の人たちに話しかけ全力で楽しんでいるのに、日本人はそれを見ても海外の人たちに話しかけられず、楽しんでいない。その光景を見て「楽しむためには、自分を表現する力が必要だ」と感じました。

そして帰国後、自分を表現する力をつけるために役者になろうと思い、芸能事務所に入りました。いくつもオーディションを受けて役者デビューの機会を待っていたのですが、いつ仕事が入るかわかりません。オーディションの合間にできる、時間の融通のきく仕事はないかと探し、たまたま人力車夫の仕事を見つけました。

やってみてわかったのですが、人力車夫は自分1人でお客さまと向き合いサービスするので、自分のトーク次第でいい仕事になるかどうかが決まります。表現力とともに人間力も磨かれる仕事です。「これは楽しい」と感じた私は、本格的に人力車夫の仕事を始めました。

「仲間と楽しめる場」を求め、人力車会社を立ち上げ、劇団にも参加

-それで人力車夫として本格的に独立したんですね。その後はどうされたのですか?

綱田さん

2年ほど経ったある時、「もともと自分がやりたかったことは『子どもたちに何かを伝える』ことではなかったのか」と思い出した私は、もう一度保育士の仕事をしようと思い、「平日は保育士、土日は人力車夫」という生活を始めました。

保育士に戻った私は「1人ひとりの保育士が楽しく働ける職場にするにはどうしたらよいか?」と、日々考えていました。

園長先生の教えで、子どもたちに「こうしなさい」と指示するのではなく、まずは子どもの気持ちを聞き、子どもの思いに寄り添って「これ面白いと思うんだけど、どうしたらいいかな」と提案してみると、面白がって自分でいろいろ考えて行動する姿がありました。確かに、子どもたちには指示するよりも問いかけた方が楽しそうです。

「そうか。保育士同士も同じなのではないか」と私は気づきました。「まずクラスや園のテーマを共有した後に『どうしたらそのテーマに近づけるか』を1人ひとりの保育士が考えるようにすれば、ただの作業が責任ある作業に変わり、工夫するようになる。それが楽しさに変わっていくのではないか」。

このとき私は、自分の視界が広がった感じがしました。「自分だけが楽しいのではなく、まわりの人たちと一緒に楽しめる場を作ろう」と考えた私は、人力車夫で出会った仲間たちと一緒に、人力車会社「壱」を立ち上げることにしたのです。

-子どもたちからヒントをもらい、会社を立ち上げたんですね。現在のお仕事状況を教えてください。

綱田さん

人力車会社「壱」には、私を含めて6人の人力車夫が集まっています。現在、浅草には人力車会社が15社あり激戦なのですが、他社から「人力車会社の中でも『壱』は仲が良くていいよね」と言われるくらい、仲は良いですね。仕事が終わった後もみんなで喋ったりしていますし、他の5人から「仕事に来るのが楽しい」「最高の会社だな」と言ってもらっています。会社の同僚というより、同じ想いを持って仕事する「仲間」です。

また、「東京アフロ」という劇団にプロデューサー兼役者として参加しています。人力車の仕事は、お客さまを2人乗せて1人で話をする「1対2」のエンターテイメントですが、「もっとたくさんの人に、間口の広いエンターテイメントができないか」と考えていたところ、演出家・KS LABO(ケイエスラボ)さんと出会ったことがきっかけです。

拠点を浅草中心地から少し離れた南千住近くに構え、浅草と劇場を人力車で結ぶ「人力車送迎付きチケット」を発売するなど、人力車と演劇を融合させたエンターテイメントも提供しています。反響は上々で、お客さまから「ありがとうございました」という言葉をいただいく瞬間が嬉しいですね。


※劇団「東京アフロ」にプロデューサー兼俳優として参加。(2020年2月5日~9日に浅草九劇で公演予定の第11回公演たいとう芸楽祭参加作品「アサクサゴールトラッシュ」のイメージ写真。写真右が綱田さんです)

最終的には、子どもたちが楽しめる場を作りたい

-人力車の仲間とともに、浅草を中心に活躍の場が広がっていますね。これまでに最も苦労したことは何ですか?

綱田さん

お金の面では、人力車の購入費用や車庫代、その他設備費などけっこうな資金が必要でしたが、私の場合はそれまでの貯金などで、なんとか用意できました。

また人の面では、同じ想いを持つ仲間が集まっているので、たいへんさは感じていません。

最も苦労したといえば、会社では経理や総務の人などが担当してくれていた専門分野の仕事を、何でも自分でやらなきゃいけなかったことですね。はじめは人力車夫として1人で独立したこともあり、ここは苦労しました。

-今後はどのような活動をしていく予定ですか?

綱田さん

人力車で知り合った仲間と一緒に、浅草で何かをしたいと考えています。「東京アフロ」への参加もそのひとつです。

直近では来年2月に「江戸まち たいとう芸楽祭」に参加します。今よりも規模の大きな劇場でエンターテイメントを提供できたら面白いですよね? また、先々には人力車夫の運動会をしたいとも考えています。子どもたちに夢を与えられそうですし、面白そうじゃないですか?

そして最終的には、自分で保育園を作りたいと考えています。そこで親が子育てを楽しいと思える イベントや仕掛けをすることで、子どもたちが生き生きのびのび成長できる場を創り出したいですね。

-最後に、読者へのメッセージをいただけますか?

綱田さん

私が独立してみて感じるのは、同じ想いや目標の実現を目指す「仲間」の大切さです。ひとりでは絶対やらないことも、仲間がいるからやれている、仲間に生かされているなと実感することは何度もありました。これから独立を目指すみなさんも、「仲間」を大切にされることをお勧めします。

また独立するということは何か「やりたいこと」があってスタートするわけですから、「なぜ独立するのか」「独立して何を実現したいのか」という最初の想いを明確にして、その軸を常にブラさないことが大切です。

私もいろいろな局面でブレそうになることがありましたが、その都度「実現したかったこと」に立ち返り、まわりの仲間と話し合って解決しています。

自分が大切にしている軸をブラさず、仲間を大切にしていけば、何か困ったことが起こったときには、きっと仲間が助けてくれますよ。

アントレ 独立、開業、起業をご検討のみなさまへ

アントレは、これから独立を目指している方に、フランチャイズや代理店の募集情報をはじめ、
さまざまな情報と機会を提供する日本最大級の独立・開業・起業・フランチャイズ・代理店募集情報サイトです。