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事業譲渡契約書の雛形作成時に抑えておくべき注意点

事業譲渡契約書の雛形作成時に抑えておくべき注意点

近年、労働力不足や事業承継難、急速な事業環境変化などの課題に対応する目的で、既存の事業を他社に譲渡(売却)する事案が急増しています。

そして、事業の譲渡には、事業用資産や取引関係、雇用などの引き継ぎを伴います。
そのため、譲渡時の混乱やトラブルを防止するための事業譲渡契約書の作成が必要となるのです。

事業譲渡における契約書とは?

事業譲渡を円滑に行うためには、譲渡する側とされる側との間で、“譲渡の条件や手続き”“経営資源の引き継ぎ”“譲渡後の双方の責任義務”などについて明確な取り決めを行う必要があります。それを行った後に、内容について双方が合意したことの証拠として事業譲渡契約書を作成します。

事業譲渡で契約書が必要な理由とは?

事業譲渡に関して契約書が必要になる理由は「経営資源を確実に引き継ぐため」「事業譲渡後のトラブルを防止するため」の二つです。

①経営資源を確実に引き継ぐ
事業譲渡は、経営者交替後も継続して既存事業を実施することを前提としています。
そのために、新しい経営者が事業用資産や取引関係、雇用などの重要な経営資源を確実に引き継ぎ、活用できることが重要となります。
これに関して、トラブルが生じることがあります。例えば、webサイトの使用に関して、制作者に自己の思想や感情を守る権利(著作者人格権)を主張されてしまうと内容の変更が制限されてしまいます。
このようなトラブルが発生しないことの確認を行うために、事業譲渡契約書を作成します。

②事業譲渡後のトラブルを防止する
経営資源の引き継ぎがスムーズに行えた場合であっても、事業譲渡後に以下のようなトラブルが生じることがあります。

A.譲渡できない未払い債務を巡るトラブル
B.譲渡した側の瑕疵によるトラブル
C.競業避止を巡るトラブル

A.譲渡できない未払い債務を巡るトラブル
債権債務に関しては、契約時の特約により第三者に譲渡することができないものもあります。その場合、事業譲渡を行った後も、譲渡した側が債務の履行を続けなければならなくなります。
これに関して、事業譲渡後に譲渡した側が譲渡された側に対して、債務の支払いを請求できる根拠を事業譲渡契約書に設けることで、トラブルの発生を防止することができます。

B.譲渡した側の瑕疵によるトラブル
事業譲渡後に、譲渡した側の責任による欠陥が原因で、譲渡された側に損失が生じることがあります。
これに関して、事業譲渡契約書の中で譲渡する側が開示した事業に関する情報に誤りがないことを保証し(表明保証)、譲渡する側が補償すべき内容を明らかにすることで、トラブル発生リスクが軽減されます。
譲渡される側も、自らの体制に欠陥的要素がないことを保証し、譲渡する側に補償を求めることのできる内容を明らかにすることで、トラブル発生リスクを軽減できます。

C.競業避止を巡るトラブル
事業譲渡後に、譲渡した側が近隣の地域で同様の事業を展開してしまうと譲渡された側に損失が発生します。
これに関して、会社法第21条で「譲渡した側は、同一の市町村や近隣の市町村で事業譲渡後20年間同じ事業を行ってはならない」とする競業避止義務を定めていますが、特約で競合避止の範囲を拡大することができます。譲渡された側が競業リスクを回避したい場合、事業譲渡契約書に特約を設けることが効果的です。

参考:e-Gov「会社法」
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=417AC0000000086#113

事業譲渡契約書に記載する内容

事業譲渡契約書を作成する際は、上記したことのほかに、以下の内容について記載する必要があります。

A.譲渡対象となる事業
B.譲渡対象資産
C.事業譲渡による対価
D.従業員の取り扱い
E.費用負担
F.譲渡契約の解除理由

A.譲渡対象となる事業
譲渡する事業の名称を記載します。

B.譲渡対象資産
債権債務も含めた譲渡する事業資産の内容や所有権が移転する時期、手続きなどを記載します。資産の具体的な中身に関しては、別途目録を作成する対応が一般的です。

C.事業譲渡による対価
譲渡される側が支払う金額や支払方法、支払時期、支払手数料負担などを記載します。

D.従業員の取り扱い
従業員の雇用をどうするのかを記載します。一部の従業員とのみ雇用契約を再締結する場合は、対象となる従業員の名前を明記することが望ましいです。

E.費用負担
事業譲渡によって生じる租税公課などの費用負担への対応を記載します。

F.譲渡契約の解除理由
相手方の合意を得ずに契約の解除が行える理由を記載します。
事業譲渡契約書の雛形に関しては、以下を参考にしてください。

参考:弁護士法人クレア法律事務所「事業譲渡契約書」
https://www.clairlaw.jp/download/asset_purchase_agreement.html

参考:契約書の書き方「事業譲渡契約書」
https://b-keiyaku.com/menu/ma/jigyo.html

参考:行政書士篠原たかゆき事務所「行政書士篠原たかゆき事務所」
http://keiyaku.selfemployed.jp/jigyoujt.pdf

事業譲渡契約書を作成する際の注意点

事業譲渡契約書を作成する際の注意点として、”自社が主導権を握ること”と”従業員への対応を明記すること”が挙げられます。
契約書は自社と相手方のどちらが作成しても構わないのですが、交渉を優位に進めるために、作成に関して自社が主導権を握ることが望ましいでしょう。
従業員への対応については、事業譲渡後の処遇は従業員の同意を得た上で決定する必要があるため、同意を得る手順などを明確にすることが重要です。
加えて、未払い給与の支払いや有給休暇の消化など労働条件に関係することへの対応をどちらが責任を持って行うのかも明確にしておく必要があります。

まとめ

事業譲渡に関しては、譲渡する側とされる側双方が抱えている事情や考え方などが異なることで思いもよらぬトラブルが発生することがあります。
よって、安易に物事を決めるのではなく、後々のリスクを考えた上で、契約書を通して双方が確認しあう対応が重要になります。

PROFILE

大庭経営労務相談所 代表 大庭真一郎

東京生まれ。
東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。
「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。中小企業診断士、社会保険労務士。

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