起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第59回・6000人の芸人を抱えられた理由
いきなりですが、クイズです!
※実際にこういう動きがあるわけではありません。あくまでビジネスのセオリーを考えるためのモデルケースとして、セブンイレブンの商品の中でサブスクリプション型ビジネスに向くものを考えてみてください。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
「月額いくらで利用し放題」というような、サブスクリプション型のビジネスに注目が集まっています。
サブスクリプションモデルは、最初はコンピューターのソフトウエアの利用形態として使われていたものでした。定額制の音楽ストリーミングサービスなどが増えたことで広く知られるようになり、最近はデジタルコンテンツに限らず、リアルなお店でも導入が進んでいます。
月額定額制で「美容院が利用し放題」だったり、「あらゆる車種が乗り放題」だったりと、いろんなサービスが実際に始まっていて、今後もより多くの可能性が考えられそうです。
それでは解説します!
最近は、飲食店でもサブスクリプションモデルを導入するところが出始めています。中でも、早い段階で導入したのが「野郎ラーメン」という人気チェーンです。
ただ、飲食の場合は、サブスクリプションモデルを導入するのがなかなか難しいと言われることも多いのも、また事実です。
「野郎ラーメン」の場合、一日一杯までラーメンが食べられて、月額8600円という価格設定となっています。これを安いととるか高いととるかは、人それぞれでしょう。計算すると、月に12回通えば元が取れる仕組みなのですが、これは他業界のサブスクリプション型ビジネスに比べてハードルが高めです。
デジタルコンテンツなどの場合はだいたい4、5回利用すれば元が取れるものが多いと言われますので、12回というのは随分高い設定だといわざるを得ません。
飲食業が難しい一番の理由は、「原価」の問題があるからです。毎日通う人がいた場合、それだけで原価割れする可能性が出かねません。仮に「野郎ラーメン」で1カ月間毎日通い続けるとすると、ラーメン1杯あたり6割引きで食べられる計算になります。原価率がどの程度かはっきりとはわかりませんが、原価割れギリギリのところではないでしょうか。
お店が損をしないような価格設定にしようとすると、どうしても飲食の場合は値段が高くなってしまいがちなのです。
飲食店で導入する際に参考にしたい「3つの工夫」
そういうわけですから、色々と始まっている飲食店のサブスクリプション型ビジネスにおいては、いくつかの工夫がされています。
1つ目が、宣伝効果を狙うことです。「とってもお得な定期券だ」みたいにアピールすることでお得感を出したり、「限定○名」と謳ったりして特別感を出すのです。そこからは儲けを取ろうとはせず、話題になることで広告宣伝費のかわりにしようとして割り切るパターンです。
2つ目が、「ついで買い」を促すことです。例えばワインバーが「チーズ」をサブスクリプション方式にすれば、当然ワインを頼みますし、ついでに他の食事も注文するはずです。チーズについては赤字になったとしても、他でカバーできる作戦です。
3つ目が、他の誰かを一緒に連れてきてくれるのを期待するパターンです。「飲み放題定期券」を販売している居酒屋では、もちろん1人で利用する人がいても元がとれるよう金額を設定しているようですが、一緒に飲む人を連れてきてもらえれば、集客効果につながります。
さて、クイズのセブンイレブンの話に戻りましょう。これらの話を総合的に考えると、やはり一番サブスクリプション方式に適しているのは「コーヒー」です。12回とはいわず、5回くらいで元がとれるような形にするのはどうでしょうか。ズバリ「月額1000円」です。
コンビニでついで買いをしてしまう人は多いですし、特にコーヒーだとパンやお菓子などをついつい一緒に買ってしまうかもしれません。それに、定期券を持ってしまうことで、日によっては他のチェーンに行っていた人がセブンイレブンにしか行かなくなるということだって十分に考えられます。
毎日利用する人がいたとしても、もともと原価率が低いといわれるドリンクですから、採算がとれる可能性は十分にあるでしょう。
サブスクリプション方式の導入で新たな付加価値をつける
サブスクリプション型ビジネスは、今後もいろいろな業界で一層広がっていくと予想されます。支持する利用者が多いだけでなく、お店側としても新たな付加価値をつけられたり、そこに新たなビジネスチャンスを見出せるからです。
リアルなものを売っているアントレプレナーの方も、こういった点を工夫して自分のビジネスに適応できないかを考えてみると、面白いことができるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「コーヒー」でした。今回はあくまで「サブスクリプション方式を導入するなら」という仮定の話でしたが、もしかしたらそのうち実現するかもしれませんね。とはいえ、どこかのコンビニが始めたら他も始めることになり、なかなか差別化もしにくくなり、最終的には横並び、振り出しに戻ってしまうのかもしれませんね(笑)
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博