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ベンチャー企業と上場企業で違う!? 事業買収における評価方法

ベンチャー企業と上場企業で違う!? 事業買収における評価方法

最近はM&Aが一般的になり、東京にいると、IPOを目指す企業への出資までも、M&Aと総称して言われるほど盛んになってきました。

ベンチャー企業も事業承継と同じ範疇でM&Aを出口にすることが主な選択肢になってきていて、IPOだけが出口だと決めつけていた日本では非常に良い傾向と言えるでしょう。

また、メディアを最近騒がせている、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの動向も、賛否両論はありますが良い流れを作っていると私は感じます。

IPOだけにこだわらずファンドに大口の出資を仰いで資金を調達し、資金調達だけを目的にしないIPOを目指す、という落ち着いた意思決定をおこなう環境が形成されてきています。

事業価値をはかる企業価値評価とは?

IPOやファンドなどへの売却、事業や企業の買収、企業への出資、これらには必ずその事業や企業の評価が伴います。

事業や企業の業績、将来性が反映されたものがないと、お金を出す側や出してもらう側の共通の尺度がないことになり、双方にとって納得のいく経済合理的な判断ができなくなるからです。

既に株式を公開している企業は、証券取引市場において公表される株価が企業価値の算定基礎となります。

しかし、IPOしていない企業の企業価値評価や、ある企業の一事業となると、取引市場が存在しておらず、IPOしている企業の公表株価に代わる適当な価値算定指標が存在しません。

IPOしている企業との比較検討を通じて評価額を類推するにしても、事業内容と規模が乖離する場合、当該評価の結果が意味をなさないことがあります。

従って、IPOしていない企業の企業価値を評価する場合、評価対象事業の事業規模、営業状況などを総合的に勘案された最適な評価方法が選定されるのです。

3つのタイプに分別される評価方法

評価の理論では、下記の3つの評価アプローチがあると言われています。

1.インカムアプローチによる評価
企業の動的価値を表す継続企業の評価において、理論的に優れた方式であると言われています。

評価手法の中で、非常によく利用されるDCF(Discounted Cash Flow)法方式・収益還元方式・配当還元方式の3つの方式があります。

2.マーケットアプローチによる評価
IPOしている企業の中で、業種や規模などが評価対象会社と類似する会社の株価・業種の、平均株価・実際取引価格など参考となる株価をもとにして、評価対象会社の株式価額を算定する方式です。

主に、類似業種比準方式・類似企業比較方式・取引事例比較方式の手法があります。

3.コストアプローチによる評価
原則、企業のストックとしての純資産に着目して株式価額を算定する方式です。

日本では非常に伝統的な手法として利用されていて、前述のような評価理論を見聞きしたことのない中小企業の経営者には、これが最も有名なのでは、と思います。

純資産方式には、大きく簿価純資産方式と時価純資産方式(相続税評価通達方式)とに大別されます。

簿価純資産方式とは直前の決算書に記載された自己資本額を基礎に評価する方法です。

時価純資産方式では企業の保有資産を時価で再評価し、負債を要弁済額として算出した純資産をもって株式価額を算定します。

特によく利用されるDCF法を解説

M&Aが盛んになっている昨今、お金を出す側や出される側からも引き合いに出される共通の手法がDCF法です。

これは、事業や企業などのある資産が生み出すキャッシュ・フローの割引現在価値を算出する手法です。

実務的には、事業や企業などの一定期間のキャッシュ・フロー(最終年度のキャッシュ・フローに成長率を掛けたものを含みます)を割引率である加重平均資金調達コスト (WACC : 有利子負債コストに資本コストも加えたもの)で割ったものになります。

評価の現場では、キャッシュ・フローの計算方法もさることながら、成長率や加重平均資金調達コストが議論になります。

成長率や加重平均資金調達コストが評価額に及ぼす影響が大きいからです。

この手法を持ち出す背景には、事業や企業が永続的であって、そのビジネスモデルを評価してほしい、逆に言えば、評価するという、双方の思惑が優先されているのかもしれません。

上場企業とベンチャー企業で評価方法が異なる

DCF法が万能な評価手法だから、上場企業・ベンチャー企業ともに、なんでもDCF法で評価するというわけではありません。

結局、最終的には双方の納得がないと理論的な価格は机上の空論で意味のない作業になります。

上場企業のようにIPOしていれば横比較する尺度がさまざまにあるため、何かしらの方法で現在の株価を説明することが可能ですが、ベンチャー企業の場合はそういうわけにはいきません。

また、DCF法で上場企業の評価をおこなうこともあり、理論的なDCF法による評価額と株価にどれくらい相違があるか、実際にM&Aの現場で比較検討することもあります。

一方でベンチャー企業の場合は「アーリーステージ」「ミドルステージ」「レイトステージ」で用いる評価方法を変えていますが、共通している視点は”比較感“ではないかと思います。

ただし「アーリーステージ」では事業と言っても心もとないほど事業基盤がぜい弱なので、DCF法が活用できるかと言えば、ほとんど成り立ちません。

その意味で、どこかの土俵に載せる作業(何の手法を使うかを決める作業)の中で評価の合意形成をおこなうため、最終的には“上場企業とベンチャー企業で用いる評価方法は実務的に同じ”と言えるでしょう。

異なることがあるとすれば、上場企業の場合、株価には投資家の投機的な期待が加味されていることがあります。

これは、儲けたい投資家が企業価値に関係なく、株価だけを考えて「こうであってほしい株価(この株価だったら稼げるという株価)」を想定しているためです。

投資の神様であるウォーレン・バフェット率いる会社バークシャー・ハサウェイが大切にしている“長期的な投資”では語られないことです。

まとめ

今でこそ、企業の評価はインターネット上でさまざまに確認でき、理論的に勉強しないといけない時代ではなくなりました。

そのため、採用する手法の理由を問うことがなく「なんとなく手法を決めているのかな」と思いがちですが実際は異なります。

当初は理由があっても、なぜか最終的には理論的ではない相対の交渉で決まったり、このくらいの価格の方が不特定多数の納得感が得られそうだ、という理由で決まったりすることがあるのです。

まずは、前述の3つのタイプに分別される評価方法を一つのビジネス知識として、身に着けてみると良いかもしれません。

PROFILE

公認会計士・税理士 佐久間 将司

慶応義塾大学卒業。
1995年10月、監査法人トーマツ入所。国際部門にて監査業務等に従事。
その後、デリバティブ等に関する税務コンサルティング、M&Aアドバイザリー、 デューデリジェンスなど幅広い業務に従事。
2009年3月よりEMZグループ代表に就任。
EMZグループは、会計・税務・労務・登記等をワンストップで提供する総合アドバイザリーグループであり、国内で会計や財務の面でのサポートを行うほかに、企業の海外進出を支援。2012年には、香港に子会社を立ち上げ、中小企業の経営者が海外に進出する際に直面する障壁を少しでも取り払い、事業の進展をサポートしている。

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