起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第53回・タイミングが肝心
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
最近は、インターネット経由で不特定多数の人から資金調達を行う「クラウドファンディング」という仕組みが一般的なものになりつつあります。
私は昔からクイズが大好きで、テレビのいろいろなクイズ番組に出させてもらう以外に、「クイズ夜会」という社会人クイズサークルにも参加しています。
サークルにはクイズ好きが集まっていて、マニアックな知識を日夜競い合っているのですが、そこで使う「早押し機」を購入しようということで、「ものは試しに」とクラウドファンディングを実施したことがありました。
それがきっかけで、その後もサークルの活動資金やイベントの費用を集めたりするようになり、先日はついに、BSスカパーで放送されるクイズ番組の製作資金の一部を捻出するにまで至ったのです。
クラウドファンディングの力、恐るべし…なのです。
それでは解説します!
一部では有名な話ですが、「Apple Watch」が発売されるずっと前に、ソニーがスマートウォッチを発売して大失敗したことがありました。そしてほぼ同じ頃、シリコンバレーのとあるベンチャー企業が同じようなスマートウォッチを発売し、こちらはすごく人気が出たというエピソードが残っています。
さてこの2つ、一体何が違ったのか。ソニーがとったのは昔ながらのやり方で、発売直前までいろいろな画期的な機能や特許などを秘密にし、ある日突然発売して人々を驚かせようとしたわけです。
一方のベンチャーはというと、まさにクラウドファンディングの発想で、商品の賛同者を募り、彼らの意見を取り入れながら一緒になって開発を進めたのです。結果、正式にリリースされた時点で数万人のユーザーがいる状態をつくることができたのだとか。
しかも、賛同者の中にはシリコンバレーのオピニオンリーダーのような人もいて、彼らがインフルエンサー的な動きをしたことから、より多くの人の目に留まり、ヒットにつながったというのです。
なぜいきなりこんな話をしたのかというと、クラウドファンディングの真髄がこのエピソードの中にあるのではないか…と思うからです。
最初は資金を集めるために行うクラウドファンディングですが、それは同時に「ファンを集める」こともできる仕組みなのです。
僕らのサークルでも、最初は早押し機の購入資金を調達するのが目的でした。しかし、よく考えてみると出資してくれた人たちはクイズに興味があるわけですから、「ならばイベントをしよう」と発展し、クイズ好きの輪が広がっていきました。地下クイズという狭い分野でもファンは数千人規模にのぼるのです。
そしてついに、テレビ番組を復活させるほどのムーブメント(ちょっと大げさですが)を起こすに至ったのです。
つまり、最初は資金不足だからと始めたクラウドファンディングが、資金はもちろんですが、はるかに顧客づくりやファンづくりの部分で効果を発揮することが分かったというわけですね。
クラウドファンディングはファンだけでなく「夢」も集められる!
『カメラを止めるな!』という映画が話題になりましたが、あの作品もクラウドファンディングで資金を集めて作られた映画です。
出資者は作品を応援しているわけですから、当然、いいインフルエンサーになりますよね。よくある映画の作られ方とは違うぶん、話題にもなりやすいでしょう。結果的に、この仕組みを利用したことが、資金だけでなくファン層を広げるところにも大きな貢献をしたわけです。
多くのファンが顕在化されたという事例で印象に残っているのは、「トリトン」という、長いこと水中に潜っていられるようにする「人工弁」を作ろうと試みたクラウドファンディングの話です。
結論からいうと、資金は集まったものの、モノが作れずに失敗に終わってしまいました。ただ、最先端素材を使って作る前代未聞・画期的な商品である「トリトン」の実現に夢を見て、多くの人が出資したのは間違いのない事実なのです。
クラウドファンディングはお金だけじゃなく、ファンを集めることができ、さらには「夢」を集めることもできるんだというわけですね。
最大のメリットは、一定層のファンがいる状態で事業がスタートできること
皆さんの場合で考えれば、これから新しい事業をスタートさせようという時に、オープンと同時に一定層のファンがいる状態を作ることができるのが、クラウドファンディングを活用することのメリットの1つだということができるでしょう。
起業家は皆、「夢」を持っています。その夢を実現させようという時に、資金のことでくよくよするよりは、夢に賛同してくれる人を探して一緒にやろうと考える方が、資金調達に加えて市場開発もできるんだというわけですね、
あらためて、クラウドファンディングというものが起業家にとっては大事なものになりつつあることを痛感しました。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「ファンを集める力」でした。ちなみに、クラウドファンディングの良い点をもう1つ挙げるとすると、試せる(世の中の反応を見られる)ということもあると思います。皆さんも「こんなものが売れるのか?」というような新しい試みからチャレンジしてみてもいいかもしれませんね。そこでいい反応が得られたら、「じゃあやってみようか」と進めればいいわけです。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博