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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第49回・日本だけが無料

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第49回・日本だけが無料

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

JALやANAの国内線では、機内でwi-fiが無料で使えるため非常に重宝がられています。しかし海外の例をあげると、アメリカの国内線でデルタ航空やユナイテッド航空などの飛行機に乗ると、機内のwi-fiは有料で8ドル近く取られるのが普通です。なぜ日本では無料で提供しているのでしょうか?

いろんな考え方ができると思いますが、今回のポイントは、「どんな人が多く飛行機に乗っているのか」をよく考えてみることです。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

日本でも公衆無線LANサービスが普及し始めており、いろいろなところでwi-fiが無料で使えるようになってきました。海外で当たり前のことがようやく日本でも広まってきた、といえるのかもしれませんね。

最近のトピックとしては、一部の新幹線でwi-fiが無料になりました。事前にメールアドレスの登録が必要だったりしますが、利用している人も多いのではないでしょうか。

とはいえ新幹線は地上を走っているわけで、無料だろうとあまり関係ないという人もいるでしょう。その点、飛行機の場合は上空を飛んでいるわけですから、勝手が違います。インターネットにつなごうと思えば、どうしても機内のサービスに頼らなければいけないわけです。

それが無料で使えるのですから、こんな便利なことはありませんよね。

それでは解説します!

日本と海外を比べて考えた時に、前提条件として「日本だと乗っている時間が短いので無料でもいい」という考え方もできますが、今回のクイズの本質はそこではありません。

今回の答えを見つけるうえで重要なのは、「飛行機を多く利用しているのは誰か」を考えることです。

日本の場合、安くて便利なLCCを積極的に使う(使わざるを得ない)一定層と、ファーストクラスしか乗らないというような人がいて、その両極端を除いた真ん中には、普通に飛行機を「足」として使う人たちがたくさんいます。その中に多いのが会社員、いわゆるビジネスパーソンと呼ばれる人たちです。

彼らにしたら、時間通りに着いたり、目的に合わせてちょうどいい時間のフライトがあることが重要であって、それがたまたまLCCだったり、JALやANAだったり、という選び方をしている人がほとんどです。そんな時に、無料でwi-fiが使えるというのは分かりやすい便利さですし、あえて選ぶ理由になり得るものでしょう。

しかも、LCCのほとんどはwi-fiが使えないか、使えても有料だったりします。無料で使える飛行機がある以上、ものすごく不便に感じませんか? 実はここが航空会社の戦略なのです。JALやANAにしたら、「うちは無料で使えるから便利ですよ」ということであり、値段の安い競合であるLCCにお客が流れないようにするための、いわば「打ち手」の1つなのです。

一言で言ってしまうと、「LCCって便利じゃん」と思うビジネスパーソンの数を極力減らすための無料サービス、というわけですね。

「会社のルール」に目を向けるとビジネスパーソンの行動が読める

先ほど、今回のポイントは利用者の多くがビジネスパーソンである点だと述べました。彼らは、仕事で飛行機に乗るわけですから、飛行機のチケットを会社の経費で購入します。ここ、実はとても重要です。

今回の学びは、ビジネスパーソンを相手にする場合の商売を考える時には、彼らが勤める会社のルールがどうなっているのかに目を向けておくと、いろいろなやり方が見えてくるんだということです。

無料wi-fiの例でいうと、経費として精算できるのだから含まれているものがあった方がお得だろうということであり、さらにいえば、あえて自腹で有料サービスを利用する人は少ないはずだという見立てができます。

似た話として、ビジネスホテルのプランの話があります。
例えば、とあるホテルには「有料テレビ無料プラン」という人気のプランがあるそうですが、これは部屋代が1000円高いかわりに1000円分の有料放送が見られるカードが無料でついてくるというプランなんだとか。他にも、「クオカード2000円付きプラン」であれば、同様に部屋代が高いかわりに、カードがついてきます。

なんでこんなプランがあるのかというと、「宿泊費は1万円以下」みたいなルールを設けている会社が多いからです。その範囲内でいかにお得に泊まろうかと考えた結果、こうしたニーズが刺さるとビジネスホテル側は考えたというわけですね。

ポイントは、いろいろなプランが用意してあるという点です。「1万円以下」に限らず、「8000円以下」「6000円以下」など、会社のルールがいろいろある以上、それに合わせてプランも多様化しています。もちろん、何もついていないミニマムプランもあるわけで、そうやってほとんどのニーズに対応するわけです。

「飲み放題付き5000円コース」が人気の理由とは?

居酒屋で「飲み放題付き5000円コース」が多いのは、「接待交際費は5000円以内」「5000円までなら会議費扱い」といったルールを設けている会社が多いからだといわれています。これも、会社のルールを参考にしたうまいビジネスですよね。

「ターゲットのことをよく知ろう」とはよく言いますが、特にビジネスパーソンを相手にする場合は、彼らの勤める組織のルールにまで目を向けてみると、いろんなビジネスのヒントが見えてくるかもしれませんね。ぜひ参考にしてみてください。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「LCCにお客が流れないようにするため」でした。ちなみに、参考までにLCCの国内線では今のところ数社が有料で機内wi-fiを提供しているようです。エア・アジアは無料提供していますが、その範囲はかなり限定的です。極力無駄なサービスを排除して安くするのがLCCですから、今後は他社がどういった動きをするのか要注目です。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHPビジネス新書)。

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