弁護士をしていると個人事業主の方からの相談を受けることがあります。
その相談のほとんどがトラブル“後”の問題です。
“納品後に代金を払ってくれない” “減額を迫られているといったお金のトラブル” “一方的に打ち切られてしまった” という、取引途中のトラブルなどさまざまですが、ほとんどがトラブル “後” なのです。
そして、そのトラブルの多くは ”契約書がない” あるいは ”契約書に書いていない” ことに起因しています。
今回は、チェックポイントをいくつかに絞った上、契約書の作成をいかに省エネで行うかという視点も含め、説明していきたいと思います。
どうして契約書が必要なのか
先述したとおり、個人事業主が巻き込まれるトラブルの多くは ”契約書がない” ことによるものです。
例えば、納品後に仕様の違いで揉めるのは、“あらかじめきちんと決めておかなかったから” あるいは “決めていたとしても一部が口約束だったりあいまいだったから” 生じてしまったものです。
契約書は、こういったトラブルを未然に防ぐ、つまり自己防衛の手段なのです。
契約書を作成する上でどのようなことに気を付けていけばよいか
まず念頭に置く必要があるのは、完璧な契約書は存在しないということです。
リスクを低めることはできても、ゼロにするのは難しいです。
誰しも裁判を受ける権利があるため、どのような言いがかりであっても、法的措置を採ることが可能なのです。
そこで、最初から完璧なものを作ろうと肩に力を入れず、自分の業務で問題になりそう、あるいは問題になったことを念頭に置きながら、以下のチェックポイントを参考に考えていただければと思います。
ポイント1:いわゆるひな型はそれなりに参考になる
まず、契約書作成の手間を省くために、参考になるひな型を集め、自分の取引にアレンジしていくという作業は、取っ掛かりとして大事です。
自分の行っている取引を、売買契約なのか請負契約なのかといった具合に大雑把な契約類型で考え、とりあえずひな型を集めてみて契約書の骨格を作ってみてください。
ひな型であれば漏れはとりあえず防げますし、最小限の条項は組めると思います。省エネにもなります。
もちろんひな型だけではうまくフィットしないことが多いので、どうアレンジしていくかもご説明します。
また、以下に述べるような視点は、逆にクライアント側から契約書を示された場合にもチェックする項目になりますので、参考にしてください。
ポイント2:特定できているか
まず、 ”特定できているか” という視点でみていくことが大事です。
例えば商品の名前、仕様、金額、納期などです。
文言として一義的に解釈できるか、ほかの物と区別できるか、を常に頭に置いてみていきます。
この際、どんどんと書くことが増えていったり、商品ごとに仕様を書き込むなど煩雑になったりしていきます。
そうした場合には、基本契約と個別契約というように、基本となる契約には契約の根幹を書き、商品の特定などを個別契約に委ねるという工夫もあり得ます。
この契約を分けるというのは手間暇も相当削減できることが多いです。
ポイント3:ミスがあった場合を想定しているか
「転ばぬ先の杖」という表現があります。
転ぶことを想定して杖を持っておくというように、契約書においても「転んでしまった場合の記載」が大事になってきます。
例えば以下のようなことを検討しておくことが重要です。
・損害賠償条項
特に一方当事者の帰責性や故意過失といった条件に関して、どちらがどの程度有利になっているか、また、損害賠償額の予定を入れる場合、その範囲をどうするか、どの程度具体的に盛り込むか、などの条項。
あまりに一方に有利であれば後々制限される可能性があるので注意が必要です。
・解除条項
どちらかに問題があった場合、契約を解除できる条項。
どのような場面で解除を有効とするか、解除手続に条件をつけるかなどがありますが、解除条項は強く作りすぎるとストレートに適用できず制限されることも多いですので、注意が必要です。
・契約不適合の場合の担保責任
従来「瑕疵担保責任」とも言われ、仕様どおりでなかった場合に備えた条項。
違反の程度によって後々採り得る方法も変わってくるので、仕様のうち何を重視しているのか、契約の目的は何か、なども書き込んでおくのが重要です。
まとめ
以上のとおり、契約書は自分を守るための「転ばぬ先の杖」ですので、契約書がなさそうであれば自分で用意し、先方から出された場合、必ずチェックしましょう。
省エネの話も出しましたが、最後は専門家にチェックしてもらう方法もあります。
法律の専門家であれば契約審査も業務にしていることが多いので、迷ったら相談してください。
その際には、自分にあったひな型を作ってもらったり契約書をチェックしてもらったり、さまざまに活用しましょう。
最初にも述べましたが、我々弁護士が相談を受けるのはトラブル “後” です。
トラブルにならないよう契約書であらかじめ身を守っておくよう、心がけると良いでしょう。
弁護士 神尾尊礼
得意分野は生活全般や企業活動全般で、退職相談を受けることも多い。
「敷居は低く満足度は高く」がモットー。