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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第44回・PayPayキャンペーンの爪跡

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第44回・PayPayキャンペーンの爪跡

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

「PayPay」の「100億円あげちゃうキャンペーン」、予定よりもだいぶ早く終わっちゃいましたね。キャンペーンが話題になるにつれ、あらゆるところでいろんな裏技が編み出されたようですが、20%が還元されるとしたら、以下のものはどこでどう買ったらお得でしょうか?
●タバコ
●東京ディズニーリゾートチケット
●お酒

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

スマホ決済「PayPay」のキャンペーンが話題になったのは記憶に新しいところです。

ソフトバンクとヤフーの共同出資会社であるPayPay株式会社が「キャッシュレス決済」の普及を目指したこのキャンペーン。スマホ決済アプリ「PayPay」を利用して買い物をすれば、購入価格の20%が還元されるというもので、1人の還元額は最大5万円。しかも40回に1回は買い物の全額が還元されるという内容でした。

キャンペーンは2018年12月4日から2019年3月31日まで、または100億円に達したらその時点で終了ということでしたが、開始10日後の12月13日に早くも100億円に達したとのことで終了となりました。

そもそも、「PayPay」はなぜ100億円も配ったのでしょうか。

実は日本では、海外、特に中国などで爆発的に普及している「スマホ決済」という支払い方法が、全く広まっていないという不思議な現象がありました。

その理由についてはいくつかありますが、日本では「FeliCa(フェリカ)」という非接触型のICカード技術の普及を優先させたことが大きいといわれています。Suica、WAON、nanacoなどのカードを皆さんもお持ちだと思いますが、「そっちの方がいいじゃん」ということで、スマホを使ったキャッシュレス決済の普及への取り組みが大幅に遅れたわけですね。

この目の前に広がる巨大な市場を、あの孫正義さんが放っておくわけがありません。これまでにも「楽天ペイ」や「LINE Pay」などの競合がキャンペーンを打ちながら、少しずつ普及に向けて取り組んでいたのですが、「PayPay」は後発ということもありドーンと一気に手を打ったというのが、今回のキャンペーンだったというわけです。

それでは解説します!

たくさんの人が「PayPay」のアプリをダウンロードして買い物したわけですが、いろんなお得な使い方がネットなどにもアップされたようです。今回特に多くの人が注目したのが、「普段は安くなりにくいものを20%還元で買おう」ということでした。

例えば、タバコです。実は「PayPay」が使える加盟店は大手のチェーン店ばかりでなく、商店街にある個人商店も多く含まれていました。後で詳しく説明しますが、導入が簡単だったこともあり、街の個人商店が加盟するケースが多かったのです。

つまり、そうした街のタバコ屋を利用すれば20%還元されてお得だったというわけですね。もちろん、ファミリーマートもタバコを扱っていますので、そっちを利用する手もありました。

ネットで大きな話題になったのが、「東京ディズニーリゾートチケット」です。ファミリーマートに設置されている「Famiポート(ファミポート)」を利用してチケットを購入し、「PayPay」で支払いをすれば、普段は安くならないチケットがお得に手に入ったという人が続出したようです。

その他で注目したいのが、ビックカメラをうまく活用する方法です。ビックカメラは家電量販店ではあるものの、お店によっては食品やお酒、衣類やメガネ、玩具や楽器など様々なジャンルの商品を取り扱っています。もちろんそのほとんどが20%還元で買うことができるわけですから、かなりお得です。

「面倒くさい」と思っていた人たちが、一斉に使い始めた!

今回のキャンペーンを通じて分かったことがいくつかありました。

1つ目は、スマホ決済の導入は投資がそれほど必要なく、割と短期間で販売店が導入を進められるということです。聞いた話では、とある大手チェーンでは今回のキャンペーンを発表する前日に導入を決め、1日で各店に指示を出したそうです。つまり、それでなんとかなってしまうレベルだということです。地域の個人商店でも簡単に導入ができたのは、そういう理由があったわけですね。

この「短期間で手間がかからず簡単に導入できる」という事実は、重要なポイントです。今後、スマホ決済を普及させる上で大きな成功体験となったのは間違いないでしょう。

2つ目が、20%というインパクトのある数字を打ち出したことで、消費者があっという間にキャンペーンを覚えて使い始めたということです。今回初めて「PayPay」を使った人の多くが、それまでは「スマホで決済するなんて大変だし面倒だ」と思っていたはずです。でもそんな人たちが一夜にして使い始めたわけですから、すごいとしか言いようがありません。

そして3つ目が、急激な勢いで加盟店が増えていることです。アプリの地図を使うと近くにある加盟店が検索できるのですが、日に日に増えているのが分かります。どうやら加盟手数料を3年間ゼロにしているとのことで、現状、加盟店にとってのリスクは少ないというメリットがあるようです。

このまま成功し続けるかどうかは分かりませんが、キャッシュレス決済が不毛だといわれてきた日本において、ものすごい数の加盟店を一気に集め、いきなりトッププレイヤーになる可能性が出てきたというわけですね。

バズって話題になったその後は…

今回のキャンペーンで得をした人もそうでなかった人も、「この次」が気になっているのではないかと思います。私は、もう1回さらに大きなキャンペーンを打つのではないかと考えています。

よく考えてみると、100億円という数字にインパクトはあるものの、仮に全員が上限の5万円還元を使い切ったとすれば、たった20万人程度利用者が増えたという話にすぎないのです。今後100万人、1000万人…とユーザーを獲得していこうとするならば、まだまだ十分ではない数字です。

マーケティングの発想で考えれば、最初はバズって話題になればOK。さらに次の打ち手で確実に人を集めるのが鉄則ですから、その意味でも次の何かを考えているような気がしてなりません。

いろんなサプライズがあった2018年ですが、この「PayPay」の話は、今年を象徴する企業成功事例だったように思います。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「(1)タバコ・・・街のタバコ屋またはファミリーマート、(2)東京ディズニーリゾートチケット・・・ファミリーマートの「Famiポート」、(3)お酒・・・ビックカメラ」でした。もっといろいろな「思わぬ物」がお得に買えたはずなので、もし次のキャンペーンがあった時は自分なりに探してみるのも楽しいかもしれませんね。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHPビジネス新書)。

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