皆さんこんにちは。
人事コンサルタントの小笠原隆夫と申します。
この度、私が独立して仕事をするようになった経緯を執筆する機会を頂きました。
私は、新卒で入社した企業に20数年勤務し、そこから人事コンサルタントとして独立して11年になります。
私は会社を辞めるという決断をしましたが、その際に多くの人が考えるのは転職だと思います。
私はあえて独立という選択をしたわけですが、そこでなぜ転職をしなかったかといえば、その時に自分が感じていたことや自分を取り巻く環境を、自分なりに考えた末での決断でした。
今のところ、その選択は間違っていなかったと感じています。
もしも皆さんの中に、これからの職業人生で独立を考える人がいるならば、私の経験や考え方が参考になると幸いです。
私が会社を辞めることを考えた大きなきっかけは、在職していた会社での2度にわたるM&Aの経験です。
特に最初のM&Aで経験したことは、私にとって大きなインパクトでした。
私はIT系企業に新卒のエンジニアとして入社し、その後は自分の希望もあって、人事の仕事に異動して経験を積んでいました。
会社自体はそれなりに成長してきたものの、その当時は業績的に厳しい状況があり、その他さまざまな事情から、他社とのM&Aが決まったのです。
私は人事部門の責任者として、人事制度や社内規程の統合を担当することになり、それぞれの会社の良いところを伸ばし、欠点を補い合うシナジーを実現したいと考えていました。
しかし、現実はそれほど甘くはなく、別々の企業が一緒になるというのは大変なことでした。
それは、お互いの会社の価値観の違いにさまざまな要素がからみ、シナジーなどというキレイごとにはならず、良いところが消えてしまったり、欠点がそのまま温存されたりすることが多数あったからです。
特に、自分が所属していた会社の良さであると認識していたことが消えてしまうのは納得に時間がかかり、「会社によってこれほど価値観が違うのだ」ということを目の当たりにしました。
そこで強く感じたのは、とにかく会社というのは外から見ても分からないことが多いということ、組織風土や社風と言われるものは、会社によって大きく異なること、その中でも特に人事の仕事というのは、経営と密接につながっていて、経営者の価値観、組織風土や企業体質によって、仕事のスタンスが大きく変わってくるということでした。
例えば、人材採用1つをとっても、人間観や評価基準などは、会社によって大きく違います。
そんな企業体質の本音の部分は、実際に仕事をしてみなければ分からないことでした。
こんな中で考えたのは、正社員として雇用されれば、確かに安定と言えるのかもしれませんが、それは1つの会社に限定して、長ければ定年まで運命を共にしなければならないということでもあります。
若いうちであれば、何度か転職を重ねて自分に合う会社を探す方法もありますが、私の年齢ではそんな時間的余裕はありませんし、そうしたい気持ちもありませんでした。
私が転職するとなれば、まずは経験がある人事の仕事になりますが、会社によって仕事のスタンスが大きく変わり、それが実際に仕事をしてみなければ分からないとなれば、1社に就職することは、私にとっては大きなギャンブルでした。
なぜなら安定といいつつ、1つの会社への適応が深くなっていくほど、他に転換することはさらに難しくなるというジレンマに陥るからです。
それを回避する方法を考えたとき、いくつかの会社の仕事をするパラレルワークができればと思い、そのための手段として考えたのが独立でした。
自分なりに調べていくと、人事の専門家を名乗る人は大勢いるものの、企業内の実務経験がある人は意外に少なく、複数社の経験となればさらに少ないことが分かりました。
また、知り合いの経営者や役員に話を聞いてみると、人事が極めて大事だと口々におっしゃいますが、専任担当を置くことが難しかったり、専門的なノウハウはなかったりという会社は数多くあったのです。
そんな潜在ニーズはあると思われる一方、ではそれを社外に依頼するかというと、それはケースバイケースで、仕事依頼に至るまでのハードルが高いことも分かりました。
そんな状況を私なりに総合判断し、1社に帰属するリスクの方が高いと考えて、私は独立を選択したのです。
独立したばかりの頃はなかなか難しい状況もありましたが、幸いそれまでの知人や関係先から仕事を頂くことができ、開業当初の厳しさを乗り越えることができた結果として今があります。
これは結果論ですが、2度にわたるM&Aによって、自分の入社した会社、2度目の相手先の会社、その統合後の新会社、さらに2度目の相手先会社と統合後の会社と、転職をせずに、計5社と深くかかわった経験が独立してからの仕事に生きています。
他にも予想がつかないラッキーやアンラッキーがあり、いつどんな経験が役に立つのかは本当に分からないものだと実感しました。
会社員の友人たちからは、「自営業は不安定で大変だろう」と言われることも多いですが、毎月の給料が決まっていない不安定さはある反面、月の売り上げが前月の2倍、3倍となるような、「良い意味の不安定」もあります。
このどちらをつかむかは、結局は本人の取り組み次第なのです。
独立を考えるにあたって、これまでの実績が本当に自分の実力なのか、それとも会社の看板でできていたことなのかを、しっかり見極めることが必要です。
しかし、そこで仕事の依頼がもらえるという自信が持てるなら、独立は決して「不安定」ばかりの働き方ではありません。
もちろん責任は重くなりますが、良くも悪くもすべてが自分の裁量ですし、自分の納得できない仕事は断る自由もあります。
最近は副業的に、スモールスタートでビジネスを始める人も増えています。
雇われることで十分に満足していればそれで良いですが、もしそうでないならば、職業人生の中に「独立」という選択肢があっても良いのではないかと、私は思います。
小笠原 隆夫
IT企業でエンジニア職、人事部門長として関連業務に携わる。
2007年より「ユニティ・サポート」代表として人事・組織コンサルティングに従事。
著書に「リーダーは空気を作れ!」(アルファポリス)。
ほかウェブのコラム執筆多数。