起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第37回・「コスト削減」のインパクト
いきなりですが、クイズです!
こうしたアプリが世の中で求められている背景を想像しつつ、アプリのおかげで誰が助かっているのかを考えてみて下さい。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
EdTech(エドテック)という言葉をご存じでしょうか。EdTechとは、Education(教育)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語で、「テクノロジーの力を使って教育にイノベーションを起こそう」というビジネス領域のことです。
教育の対象は、何も学校に通うこどもに限ったものではありません。社会人の資格取得や語学力アップなども教育の1つですから、カバーできる範囲が広く、ものすごい可能性を秘めた領域といえます。
特に日本においては、これまでは文科省主導で進められてきた背景があり、なかなか民間の参入が進まなかったという背景がありました。しかし、EdTechの名のもと、教育に関する革新的なサービスが次々に生まれているのです。その1つが、アプリを使ったサービスです。
それでは解説します!
教育の現場で最近特に注目を集めているのが、授業や講義の動画が気軽に見られる「勉強アプリ」です。場所を選ばずに、見る人のレベルに合ったものを選んで活用できることから、教育の現場では非常に重宝されているようです。
こうした勉強アプリのほとんどは、元は受験対策用として普及してきました。その背景にあるのが、今の教育における課題の1つとなっている、「しつけは学校で、勉強は学習塾で」という風潮です。
受験するための勉強だけでなく、学校で学んだことを補うために学習塾に通う人が増えれば、学習塾側も多様なニーズに合わせたプログラムを用意する必要が出てきます。勉強アプリを取り入れれば、効率よく、一人ひとりに合った学び方が提供できるとあって、非常に重宝されているわけですね。
そして、そうしたアプリの便利さが知れ渡るにつれ、逆に学校が勉強アプリを教材として買い始めたというのです。
学校としては、お金がなくて学習塾に通えないこどもをどうするのかという問題があります。学校の先生の業務量が膨大すぎるという長年の課題もあります。それらをうまく補ったのが、まさに勉強アプリだったのです。「これ、すごい便利じゃん!」というわけですね。
この話のどこがポイントなのかというと、それは「競争相手が一番のお客になる可能性がある」ということです。
従来の発想だと勉強アプリの営業先は学習塾であり、学校は営業先にはなり得ないはずでした。しかし、試しに学校に対して営業してみたらものすごく食いつきがよく、気がついたらもっとも大きなクライアントになってしまったというわけです。そういうことは往々にして起こり得るのです。
お店監修のカップ麺が売れれば、実店舗の売り上げも伸びる
本来は競争相手のはずなのに、気がついたら一番のお客になっていたり、お互いのビジネスを補完する関係になっていたという話は、見渡してみると実はいろいろなところで起こっています。
例えば、「カップラーメン」と「実際のラーメン店」は、本来は競争相手のはずです。しかし最近はラーメン店が監修するカップ麺が当たり前のように発売され、それによって双方の売り上げが上がっているというのです。
私がよく食べに行く人気ラーメン店でも、入り口で大々的にカップ麺を紹介しています。普通に考えれば、同じ味を楽しめるならカップ麺の方が圧倒的に安いわけで、入り口のそんなところでアピールしたらみんな引き返してコンビニに行ってしまうのではないかと心配してしまいますが、そんな単純な話ではないわけですね。
「ヤフーオークション(ヤフオク)」も、登場したときは「小売店」の競争相手として注目されました。ヤフオクが普及すれば実店舗の売り上げに影響が出て、もしかしたら潰れるお店が多発するのではないかと危惧されたのです。しかし、今やその小売店がヤフオクに出店することで商売の幅を広げています。
もう1つ挙げるとすれば、「トヨタ自動車」と「テスラモーターズ」の提携の話も当てはまるでしょう。シリコンバレーを拠点に電気自動車関連商品やソーラーパネルなどを開発・製造・販売しているテスラ社にとったら、本来トヨタ自動車は倒さなくてはいけない強力なライバルのはず。しかし、あえてトヨタと提携することで、自社の電池技術をトヨタに高く買ってもらうことに成功したのです。
「競争相手」だと思って最初から諦めないこと!
競争相手だからこそ、実は商売相手にもなり得る。これは、言ってみれば「発想の転換」です。
「ここはお客にはなり得ないだろう」と決めつけてしまえば、そこでビジネスチャンスは閉ざされてしまいます。しかし、「実は商売相手になり得るかもしれない」「大きなお客になるかもしれない」と考えてみることで、大きなビジネスチャンスを見出せるかもしれません。
最初から決めつけず、いろいろな可能性を考えられる柔軟性を持つことは、起業家にとっては非常に大事なことです。ぜひ頭に入れておき、自身のビジネスを拡大するときのヒントにしてみて下さいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「学校」でした。ちなみに、政府は2020年より生徒1人に一台ずつタブレットを配布して授業に取り入れる方針を発表しています。そうなると、こうしたアプリの活用はますます増えると考えられます。EdTechの領域にはものすごいビジネスチャンスがありそうですから、そちらにもぜひ注目してみてくださいね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博