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プラス1日の休日が、心のゆとりを生む。株式会社週休3日が進める働き方の意識改革

プラス1日の休日が、心のゆとりを生む。株式会社週休3日が進める働き方の意識改革

働き方改革の実現が政府主導で進められているが、仕事環境が劇的に変わったと感じている人は少ない、と思われる。

理想と現場の実情はなかなか噛み合わない。おそらく効果が出るのはずいぶん先で、制度だけでなく、仕事に対するイメージそのものも変えなければいけないのだろう。

という前置きはさておき、「休みがもう1日欲しい」と考えている人も多いはず。

かく言う私も休みが欲しい。そんな折「株式会社週休3日」という会社があることを耳にした。同社は薬剤師や介護士に特化した採用人事サービスを運営していて、週休3日、正社員で働ける転職先を紹介しているそうだ。

今回は株式会社週休3日代表取締役の永井宏明さんに、事業立ち上げの経緯や立ち上げ後のエピソードを伺った。

まるで冗談のような社名だが、お話を聞いて驚いたのは、その社名には実績やデータに基づいた思いが込められていたのだ。

<プロフィール>
永井宏明さん
株式会社週休3日 代表取締役

印刷・広告代理店営業、Webコンサルタント、総務人事を経て、介護施設の施設長を8年務める。2016年に株式会社週休3日を立ち上げ。医療介護福祉を中心に採用人事をサポートする。共働きでこども4人を育てつつ、演劇チームを主催して20年以上活動中。

広告から介護業界へ、開業の原点になった転身の理由とは?

− 永井さんはなぜ、「株式会社週休3日」というユニークな社名の会社を立ち上げたのか、まずは立ち上げに至るまでのバックグラウンドをお聞きしたいと思います。永井さんはどのような職歴を歩まれてきたのでしょうか?

永井宏明さん(以下、永井さん)
おおまかに職歴を話すと、僕は印刷会社の営業や、広告代理店の営業、Webコンサルタント、専門学校講師、総務人事、その後介護施設の施設長を遍歴してきました。

大学4年生の時は90年代後半で、インターネットの黎明期でした。これからはネットで発信が容易になるからコンテンツが力を持つと思い、クリエイティブの制作や配信に携われる広告関連の仕事を選んだんです。

株式会社週休3日に直接的につながる職歴は、8年間勤めた介護施設の施設長でした。

− 先ほどお聞きした時に気になっていたんですが、広告から介護業界なんて思い切った転職ですよね。

永井さん
Webコンサルタント会社から独立してフリーランスや専門学校の講師をしようと考えていた時期があったんです。そんな時、クライアントの社長から「週4でいいから来い」と誘われて、週休3日正社員の総務課長になりました。

1年程度は、週に1日、専門学校の講師をしていたんです。思い返せば、これが週休3日の原点ですね。

その会社は多角化が進んでいて、介護事業も行っていたので、ある日社長から「施設長にならないか」と誘われたんです。全く新しい業種に挑戦できるチャンスだと思い、即座に「ぜひ」と返事をしました。

実験的に始めた「週休3日制度」で離職率が1桁に

− 施設長から会社の設立へはどのようにつながっていくんでしょうか?

永井さん
転職当初、週休3日で働いていて、休みの日を専門学校講師と子育てに充てていました。休みが1日増えるとインプットが増えるので結果、仕事にも良い影響が出るんです。
この働き方を導入したら、スタッフにも良い影響が出るんじゃないかとずっと思っていました。

そして、介護施設の施設長になって採用に困った際、社長にご理解いただき週休3日制度を導入してみたんです。

社内では「給与が4/5に減るのだから、そんな働き方を選ぶ人はいない」と懐疑的な声もありましたが、希望者には給与は8割、週休3日正社員として働いてもらったんです。導入から数年たち、従業員の離職率が年間20%程度から7%台に減ったんですよ。

− 介護業界は離職率が高いと言われていますが、休みが1日増えるだけで大きく変化するものなんですね。

永井さん
その1日が効果的なんです。

「なぜ離職率が減ったのか」を考えてみたんですが、その答えは、従業員の心に余裕と活力が生まれたからではないかと思いました。

当時の僕は、0〜100歳の人と接していました。

家庭では子どもが生まれたばかり(0歳)で、仕事ではご年配の皆さん(60〜100歳)やスタッフ(20〜50歳)と接し、職場の外では長らく続けてきた演劇が高じて演技講師もしていたんです。

そんな風に幅広い年代の人と接したことで、人の根本について考える機会が増えていきました。

そこで分かったのは、人は心に余裕がないと不満が溜まってしまい、人に優しくできない、ということ。これは年齢に関係なく言えることです。

介護職に求められる思いやりは、心の余裕から生まれます。だから、心の余裕が持てる、消耗しない仕事環境を作らなければと思ったんです。

休みが1日増えることで、休息やプライベートに使える時間が増えて心に余裕が持てる。だから仕事でも、人に優しく接することができる、そんな環境を作ることができました。


− 1日休みを増やしたことで、スタッフの意識の変化が起きたのですね。

永井さん
そうなんです。それと、週休3日制度を始めてみて分かったのが、会社にもメリットがあることでした。週休3日採用なら子育て世代や介護世代でも働きやすいので人が集まりやすい、結果採用コストが下がりました。加えて、スタッフに精神的余裕があるので介護の質も高まり、施設の評価も上がったんです。

− たった1日、されど1日ですね。

永井さん
人材採用において、「正社員は1日に8時間、1週間に40時間勤務」という考えは足かせになっていることも多いと感じています。今では労働時間の基準になっていますが、人材不足の業界も多い中、この固定観念が人材採用のネックになっていることも多い。

人口増加社会では消費者のニーズからビジネスが組み立てられるパターンが一般的でした。でも、人が集まらなければビジネスはできない。これから人口が減少していく社会では働く人のニーズから事業を組み立ててもいいんじゃないかと思います。

永井さん
その視点で見ると、弊社のサービスは「年収の20%を使って、週4日勤務を実現するサービス」なんです。

もちろん、週休3日制度は全ての業種にフィットするものではありませんし、働く側から見れば「スキルを伸ばすために週休1日でいい」という時期もあるでしょう。週休3日はあくまで選択肢。働き方、休み、年収を選べることが大切なのです。

1期目は1000万円以上の赤字、倒産寸前からのV字リターン

− 永井さんはその後、介護施設の施設長を退職し、会社を設立されました。たしか御社は2018年で2期目ですよね?

永井さん
会社の設立が2016年の8月なので、そうですね。

− 設立から2年間の業績はいかがでしたか?

永井さん
実は1期目は1000万円以上の赤字だったんです。というのも事業開始前、色んな事業所に週休3日制度を導入してもらえるよう根回ししていたんですが、いざ事業を開始してみると「やはり制度を変えるのは難しく…すみません」と断られてしまったんです。

紹介先が集まらず、資金調達と自己資金でまかなっていた事業資金も2017年の7月頃には底をつきかけました。

そんな中でも、奥さんから「早く結果は出してよ。」とプレッシャーを受けたり(笑)。

− 信頼されているんですね(笑)。業績はその後どうなったのでしょうか?

永井さん
転機になったのは2期目で「週休3日薬剤師」というサイトを設け、医療介護から薬剤師の紹介へと特化させたんです。

以来業績も順調に上がっていきました。

永井さん
週休3日の求人を提案すると「そんなことできませんよ」と言われることも多く準備に時間もかかりましたが、やりにくいことだからこそ差別化になって強みになる。あえて難しい事業を選んだことが結果的に良かったのだと思います。

− 2期目にはユニークな社名がSNSで話題になったり、Yahooトピックスにも取りあげられましたよね。

永井さん
インパクトがありますよね「株式会社週休3日」という名前は。銀行で社名を呼ばれる時は周りがざわつきますし、営業の電話をすると「変な名前をつけるな!」と叱られることもありました(笑)。

− エピソードにもインパクトがありますね。そろそろ最後の質問です、今後どのようなビジョンを描かれているのですか?

永井さん
先ほど営業の電話で叱られた話をしましたが、週休3日制度のメリットを伝えると納得してくれる経営者の方も多いんです。これだけ反響があったのは「もう1日休みたい人」が多かったからだと考えています。

潜在的なニーズも多いと思いますし、意識の変革が起こればシェアも広がるはず。大風呂敷を広げてしまいますが、将来的には「日本人口の25%が週休3日で働けること」を目標に働き方の選択肢を増やしていきたいと思います。

(インタビュー終わり)

多くの人は正社員としての働き方を「週の労働時間は40時間で、週休は2日」と思い込んでいるが、より実情に沿った方法があればそちらを選んでも良いはずだ。もちろん週休3日制度は全ての業種にフィットする方法ではないけれど、雇われる側にとって選択肢が増えるのは好ましいことだろう。

インタビューのなかで「これから人口が減少していく社会では、働く人のニーズから事業を組み立ててもいいんじゃないかと思います」という言葉を聞くことができたが、これは雇う側にも有益な考えだろう。

独立開業して事業が軌道に乗ると、雇う立場にならざるをえない。そんな時にたった1日休みを増やすだけで、信頼できるスタッフが長期間働いてくれるかもしれないのだ。

事業は働いてくれる人の協力で成り立っている。事業ありきではなく人ありきで会社を選ぶ人は、年々数を増しているように思う。

「採用にはコストがかかることが多いが、いざ採用してみるとなかなか定着してくれない」と頭を抱えている人も多いはず。そんな時は、休みを1日増やすことがソリューションになるかもしれない。

取材・文 鈴木雅矩(すずきがく)

ライター・暮らしの編集者。1986年静岡県浜松市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、自転車日本一周やユーラシア大陸横断旅行に出かける。
帰国後はライター・編集者として活動中。著書に「京都の小商い〜就職しない生き方ガイド〜(三栄書房)」。おいしい料理とビールをこよなく愛しています。

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