個人事業主が入る保険といえば、国民健康保険を思い浮かべる方が多いと思いますが、他にも入れる健康保険があります。
加入するには条件があり、医療給付や保健事業の内容も異なります。
それぞれの特徴や留意点をみていきましょう。
個人事業主が入れる健康保険とは?
個人事業主が入れる健康保険には下記のものがあります。
・国民健康保険
・任意継続保険
・業種別国保組合
・親族の健康保険の扶養に入る
それぞれ、具体的に説明します。
個人事業主が加入義務のある健康保険:国民健康保険
個人事業主になると、原則として国民健康保険に加入が必要です。
国民健康保険は住民票のある市町村が運営しており、市町村によって保険料や条件が異なります。
会社員・公務員が加入する社会保険と違い、国民健康保険には扶養の概念がありません。
国民健康保険の被保険者になると、同一世帯の被保険者の人数分だけ保険料を支払う必要があります。
手続きは、個人事業主本人または世帯主が市町村の窓口で行います。
同一世帯の親族に国民健康保険の加入義務が生じると、世帯主本人が社会保険の加入者で国民健康保険に加入していなくても、世帯主に国民健康保険の支払い義務が生じます。
個人事業主には国民健康保険以外の選択肢はあるの?
国民健康保険には扶養の概念がないなど、会社員・公務員が加入する社会保険と比べて支払う保険料が割高になる傾向にあります。
医療機関を受診した際の自己負担額は、国民健康保険でも、会社員・公務員が加入する社会保険ともに3割ですが、できれば支払う保険料も抑えたいもの。
実は、個人事業主にも場合によっては国民健康保険以外の選択肢を持てるのです。
任意継続保険
退職前の会社で協会けんぽ、または健康保険組合に2カ月以上加入していた場合は、退職後も健康保険を2年間継続できる任意継続保険に加入することができます。
任意継続の場合は、保険料を会社負担分も含めて全額自己負担になります。ちなみに、会社員の場合は保険料を会社と従業員で折半して支払っています。
ただし、協会けんぽでは、標準報酬月額28万円を上限として保険料を算出するので、最大でも月額約3.2万円(平成30年4月以降の東京都の場合)となり、保険料は2年間変わりません。
保険料は退職時の報酬によって変動し、もともと会社が半額負担していたからといって、退職後の個人の保険料負担が2倍になるわけではありません。
申請手続きは、居住地の協会けんぽ、または健康保険組合に資格喪失日から20日以内に行います。
この際、「任意継続被保険者資格取得申出書」という書類を提出します。
扶養家族がいる場合は、申請時に手続きをすると2年間は扶養家族として健康保険に入ることが可能です。
扶養家族を申請する場合は、上記の書類と併せて「被扶養者届」を届出ましょう。
「任意継続被保険者資格取得申出書」の提出から約2〜3週間程度で手続きは完了し、手元に保険証が届きます。退職者の多い時期(4月など)は、保険証の到着に3週間以上かかる可能性があります。
なお、届出を出してから手元に保険証が届くまでの期間も、健康保険給付の対象です。そのため、この期間に医療機関を受診し、医療費を全額負担した場合は、保険証が手元に届き次第「療養費支給申請書」を協会けんぽや保険健康組合に提出し、負担した医療費の払い戻しを受けましょう。
注意点は、保険料の支払いが遅れた場合は翌日すぐ資格喪失となり、復活することができないことでしょう。
業種別国保組合
一般の国民健康保険とは別に、地域や業種で構成される健保組合や国保組合の加入条件を満たす場合は、加入を検討してみてください。
代表的なものは、建設連合国保、文芸美術国保、東京美容国保、税理士国保などです。
業界団体への加入や地域など、国保組合により加入条件が異なります。
国保組合は、同業種で組織された組合方式で運営されているため、国民健康保険と違い、国保組合それぞれで、運営基準が異なるのです。
保険料は、国保組合により異なり、所得にかかわらず一定のことも多く、国民健康保険より安くなる場合もあります。
また、医療費給付以外の傷病手当金、葬祭費の給付や、人間ドック補助金のある組合もあります。
なお、従業員がいる場合は、従業員過半数の同意が必要となりますので注意してください。
親族の健康保険の扶養に入る
配偶者や親族が健康保険に加入している場合は、個人事業主の収入と親族の収入条件を満たせば、親族の健康保険の被扶養者となることができます。
独立したばかりで収入が少ない場合は、一度、親族の扶養に入ることを考えてもよいでしょう。
扶養に入る場合の条件は以下の通りです。
・個人事業主(被保険者)の年間収入が130万円未満
・扶養者と同居の場合は、収入が扶養者の収入の半分以下
・別居の場合、収入が扶養者からの仕送り額未満
ただし、被扶養者の収入には、雇用保険の失業給付や公的年金や健康保険の諸手当も含まれますので、該当する場合は注意が必要です。
個人事業主が入る健康保険は経費扱いにできる?
個人事業主の経費にできるのは、事業の利益をあげるために必要な費用です。
健康保険料は個人の費用であり、事業とは関係ないため、経費にすることはできません。
ただし、5人以上の従業員を雇用し、社会保険に加入した場合、社員の健康保険料の会社負担分は、経費(法定福利費)になります。
個人事業主本人は社会保険には加入できず、保険料も経費にはできません。
経費扱いにはならないが、所得控除の対象となる
個人事業主の社会保険料は経費扱いにはなりませんが、支払った全額が所得控除の対象となります。支払額には、個人事業主だけの社会保険料だけでなく、生計をともにする家族も対象です。
確定申告の際に提出する「確定申告書B」に、社会保険料控除の欄があるので、そこに納付した金額を記載します。
個人事業主になる前に健康保険をどれにするか確認を
個人事業主であっても、必ず、国民健康保険に加入しなければならないわけではありません。
保険料は、住んでいる市町村・地域や業種だけでなく、収入や家族構成によっても異なります。
個人事業主として独立する前に、上記の4つの健康保険の中でどれに加入することができるか、あらかじめ検討しておきましょう。
その上で、任意継続保険料と国民健康保険料および該当する国保組合の保険料が家族全員でいくらになるのか、確認しておいてください。
任意継続の場合は、最長2年間加入できますが、初年度の収入が低い場合は、次年度以降は他の保険料が安くなることもあります。
あらためて2年度の保険料を確認し、検討しましょう。
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経営コンサルタント 奥野美代子
独立後は、中小企業診断士とFPのノウハウを生かし、経営者の法人と個人の財務コンサルティングやリスクマネジメント、事業計画策定、マーケティング支援など幅広い支援を行っています。