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事業承継はカッコ悪くない! 【最終回】ベンチャー型事業継承の魅力

事業承継はカッコ悪くない! 【最終回】ベンチャー型事業継承の魅力

平安伸銅工業(株)の打ち合わせの様子

前回は平安伸銅工業株式会社の事業継承をされた竹内 香予子さんに、入社の経緯から入社後に会社の危機を知るまでを伺いました。今回は会社の復活に向けて、どのように歩み始めたのかを伺っていきます。

PROFILE
竹内香予子さん
“突っ張り棒”のトップシェアメーカー、平安伸銅工業(株)の3代目社長。代替わりを期に、新マーケット創造とブランド力強化を目指し、組織改革や新製品開発に取り組む。当初“突っ張り棒”は“オワコン”(流行が廃れてしまったもの)だと思っていたので、お片付け専門ウェブメディアを立ち上げたり、思い出の品専用の収納ボックスを開発したり、果敢に新事業に挑戦するが成功に至らなかった。しかし、今一度、自分たちの強みに立ち返ってみると、“突っ張り棒”がいかに機能的で生活に役立つものか魅力を再認識する。現在は、“突っ張り棒”の特長を活かした新製品「ラブリコ」や「ドローアライン」の開発に携わる傍ら、“突っ張り棒博士”として“突っ張り棒”の正しい使い方や意外な活用術をメディアにて発信している。元産経新聞記者。

従業員が40名を超え、組織作りや業績管理でも新たな挑戦へ

——御社のモノづくりはどう変化していくのでしょうか?

モノづくりに関しては、自分と同世代が感じる違和感を敏感にかぎ取って、「自分が欲しくなるもの」を作るという視点は、向こう5~10年であればまだ良いかなと思っています。ただ、それだけをやっていると、私が歳を取ってしまうとダメになっていしまうので、私がいなくてもアイデアが出てくる開発組織を作っていこうと思っています。そのためには、アイデア出しのワークショップやフレームワークを勉強したりしています。将来に向けた投資ですね。だって、怖いですもん。私がいなくなって何もアイデアが出なくなったら困るという危機感はとても強いです。

——モノづくりを支える組織の未来についても伺いたいのですが、竹内さんの入社当時は16名だった従業員が40名を超えるほどまでに拡大したと伺いました。組織に対する想いなど変化はありますか?

最近意識するようになったのは、ビジョンの浸透です。数年前から必要だと感じ始めてはいました。チームビルディングのためにビジョン、コアバリューをかかげて、社員と共有して組織運営していこうと考えたんですけど、結局、浸透せずに絵に描いた餅になっていました。

今、ホームページにも載せているコアバリューが全然活用されていなかったんですね。でも、この一年で新商品が出てメディアにもたくさん取り上げていただけるようになって、業務が本当に忙しくなってきて、社員が40名を超えてくると部署間の連携がギクシャクするようになってしまいました。組織全体の風通しがとても大事なステージに入ってきたなと感じています。

今までは、ビジョン、コアバリューがなくても、ある程度みんなで価値観を共有して仕事が回っていました。10~20名の会社だと私が直接見ることができるし、みんな顔見知りで何かあれば随時話し合うことで業務連携は取れていたんですね。

でも、40名を超えるとお互いのことをあまり知らない人が増えてきて、業務連携で課題が発生していたとしても、私や主人がリアルタイムで拾い上げることができない。自分の業務が忙しいので話を聞いてあげられないという状況になってきたんです。ビジョン、コアバリューの目線合わせをして、ちゃんと業務連携をする権限を現場に委譲しつつ、現場間でずれないように調整していかなければまずいと感じました。それで、この春からビジョン、コアバリューをもう一度みんなが納得する形で紡いでいって、現場に浸透させるという活動を始めました。

例えば、コアバリューの浸透プロジェクトの場合、まず年齢、社歴、雇用形態など様々なスタッフを自薦・他薦で選抜。経営陣は入らずプロジェクトをサポートしている外部メンバー主導で、スタッフ一人一人からそれぞれの価値観を洗い出すプログラムをしました。そして、出てきたスタッフの価値観を既存のコアバリューに重ね合わせることで、コアバリューを再度整理しました。経営陣からの落とし込みではない新しいコアバリューは、社内発表の場をもって、これらの言葉にまとまった経緯も含めて公表する予定です。そして今後同じ価値観を内観するプログラムをスタッフ全員に受けてもらい、新たな重なりからコアバリューを更にブラッシュアップする予定です。

【 コアバリューの変化。「つくる」というキーワード 】

■ビフォー

    • 1.半歩先を行く
    • 2.喜ばすことを喜びとする
    • 3.全力でやり遂げる
    • 4.メリハリを付けて働く
    • 5.信頼と敬意を持つ
    • 6.好きにこだわる
    • 7.感謝の心を持つ
■アフター
HEIANのコアバリュー 「6つのつくる」

  • 自分の暮らしは自分でつくる
  • 長く愛されるものをつくる
  • 自然体でいられる場をつくる
  • 仕事だけでなく自分の時間をつくる
  • お互いを気遣える仲間をつくる
  • お互いが才能を爆発させあう組織をつくる

——組織の増加に加え、受注が増加し、売り上げも22億円まで拡大されたということで、業績管理の変化はありますか?

業績管理については、会計ソフトで作成された会計データを会計事務所と共有しており、リアルタイムで業績を把握できるようにしています。一方、営業数字はもっと細かくリアルタイムで見ていきたいです。過去の長い付き合いもあり、お客さまごとで取り引き条件も複雑になっているので、現状は市販ソフトを使ってもカスタマイズが容易ではないのです。商品別や取引先別、地域別の売り上げをリアルタイムで把握できていないのはすごく課題に感じています。

バックオフィス全般の管理は、約3年前に入社してくれた70歳の管理部長に任せています。管理部長が入社してくれたのは、私が経理を見ているようでは、いよいよダメだなというタイミングでした。送金や月次決算の締めのチェックを誰か経理のプロに任せたいと思っていたんです。

その中で、人材紹介会社の紹介があり、もともと伊藤忠商事の管理部門にいて、その後、関連会社に出向されて常務取締役まで務めていた方がいると。中小企業と大企業双方の管理の仕方を分かっている人がいて、「自分の知識を最後どこかの会社で活かしたい」と思っている方が入社してくれました。私は本当に人に恵まれているなと思います。

——皆さんとてもお忙しくなってきている中で、労働生産性を高める取り組みがあれば教えてください

色々やっていて、「チャットワーク」でグループごとの進捗管理をやったり、「Skype」でビデオ会議をしたり。「Google」のスプレッドシートなども使って、みんなでファイルを共有して同時に編集したりもしています。そういう環境もあるので、在宅スタッフも上手く活用していて、例えばパッケージ写真のレタッチや画像の修正といった業務は、クラウドソーシングサービスで外注したりもします。その方々に随時必要な時に仕事を割り振って、「チャットワーク」や「Skype」を活用してオペレーションを回すこともしています。

スプレッドシートの共同編集は、最初、営業のベテランの方は抵抗があったようですけど、社内の平均年齢も40歳くらいまで下がっていて、後から入社してきた方ほどITツールに抵抗がないので段々違和感はなくなっていますね。はじめは「Skype」の動画機能を全然使っていなくて、しつこく顔を見せろと言い続けた結果、みんな動画をオンにしてくれるようになりました(笑)。ビデオ会議というより電話の感覚が抜けなくて。実際に電話機の形をしたマイクを使ったり。「手を離せないやん」(笑)みたいなこともありました。

——余談ですが、生産性を高める上で、こんなサービスやこんな人がいれば、よりスムーズに事業を進められたと思うことはありますか?

最近特に思うのが、高度人材をプロジェクト単位でアサインできるサービスがあれば良いよねと思います。実際、個人ベースのつながりでは今のビジネスでも活用しているんですが、例えば採用に関わる人事や、広報・経営企画・営業企画・物流企画など頭脳プレーが必要になる分野、例えばCFOもそうですが、ガチンコで採用しようと思うととても難しいんです。給与も上がるし。

あと、弊社の規模で毎日仕事があるかと言えば、普通に記帳業務をさせちゃいそう、ということになりかねないので、なかなか採用しづらいんです。でも、やはりそういう人材がいるかどうかによって、戦略の精度は全然変わってきます。

そういう意味で、計画や企画を立てられる人たちをプロジェクト単位でアサインできる、その人材は例えば大手のメーカーで働いている。だけど大手ではなかなか若手に決裁権は与えられないじゃないですか。なので、そういった知識は持っているけど、自ら意思決定をして計画を推進する経験をできない立場の方々が副業で来てくれる、そんな紹介サービスがあっても良いのではと思います。

最近、経営に関して個別に勉強したい内容をグロービス大学院の単科制度で受けているのですが、すごく頭の良い人がたくさんいるじゃないですか(笑)。「なんやこの人たち」と思って。ビジネスのフレームワークを既によく知っているし、すごいなと思って。だけど、あの人材にフルで給料は払えないし。そういう人たちにプロジェクト単位で助けてもらえれば、お互いにwin-winだとは思います。

“つっぱり棒”と相撲の“つっぱり”をかけた平安伸銅工業(株)ポーズで社員撮影

事業承継の魅力

——最後に、今後、竹内さんのような「ベンチャー型事業承継」は増えると思いますが、大事にすべき価値観や事業承継の魅力を教えてください。

価値観は2つあって、「事業承継が格好悪い」と思って避けるのであれば、それは違います。事業承継で素晴らしい経営者になっている人は大勢いるし、例えば株式会社ユニクロの柳井氏や株式会社星野リゾートの星野氏もそう。ファミリービジネスからスケールアップしているケースはあります。なので、冷静に事業の可能性を見極めれば良いだけです。

もう1つは継がない勇気もあって、事業の可能性がないなら会社をたたんで、全く新しい会社を興せば良いと思います。家業をやられている方独特のビジネスのセンスはあると思うんです。家業を継がずに起業された素晴らしい経営者の方もいらっしゃるので、どちらもアリだと思います。

事業承継の魅力は、住宅のリノベーションに似ていると思います。事業承継は既に存在する事業に手を加えて良くすること。引き継いだ信頼や商品力、人材をいかに活かして、時代に合ったビジネスにアレンジするか。ゼロからでは絶対に作れない、唯一無二のビジネスモデルが構築できると思います。

<インタビューを終えて>
平安伸銅工業(株)復活の鍵は、竹内さんの「徹底したユーザー目線」と「人とのつながりを大事にする」という姿勢だと感じました。同時に、そこに至るまでは、「何とかしたい」という強い想いと圧倒的な行動力に支えられているんだなとも感じました。今後の竹内さんと平安伸銅工業(株)の快進撃に、ご注目ください。

平安伸銅工業(株)における、ベンチャー型事業承継の軌跡
2010年1月 竹内香予子社長入社
2014年6月 お片付けのノウハウを集めたウェブメディア「cataso」(カタソ)を発表
2015年1月 女性起業家ビジネスプラン発表会「【LED関西】女性起業家応援プロジェクト」ファイナリスト
2015年10月 大阪府ベンチャー企業成長応援プロジェクト「Booming! - 大阪府ベンチャー企業成長プロジェクト」選抜
2016年8月 女性や家族が楽しめる安全で手軽なDIY商品の「ラブリコ」を発表(2016年度グッドデザイン賞受賞)
2017年4月 便利グッズだった“突っ張り棒”を、暮らしを豊かにする“一本の線”として再定義した「ドローアライン」を発表(2017年度グッドデザイン賞受賞)

グッドデザイン賞の授賞式。左は常務取締役であるご主人の一紘さん

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