金谷宏さん(63歳)
VOL.215「世界一愛される会社」を目指す人材派遣会社
ビジョンなし経営で離職者続出。
「人を大切にする会社」へ一歩
なぜこんなに人がやめていくのか、当時は理由が分からなかったんです。会社はどんどん大きくなっていくのに幹部がお客さんを持って独立していく。幹部の1人が会社を去る時「この会社にはビジョンがない」と言われて、グサリときました。以前、勤めていた会社が倒産したことがあります。ですから起業するときも、ビジョンより家族の生活を守ることが大事。がむしゃらでした。でも会社が大きくなるにつれ、社員は単に利益を上げるための手段になっていった。
それからは組織の立て直しです。人を育てる研修にも力を入れましたが、ビジョンのことはよう分からないままでした。経営理念はあったものの、「格好ええな」と思う言葉を額に入れて社長室に飾っていただけ。社員はその存在すら知らなかったでしょう。もんもんとしている時、ある女性経営者に「その理念、腹に落ちていますか?」と聞かれて、またグサリ。ようやくビジョンを見つめ直す覚悟が決まりました。私たちの事業ドメインは総合人材サービス、要するに「人」です。ならば「人を大切にする企業」の理想を追求しようと、社内競争もなくしました。今度のビジョンは社員とも共有しています。理想ですからすぐに達成できるものじゃありません。でも、私が会長に退いた後も、現社長がその理想を絶えず追求してくれているんです。
撮影/刑部友康、片桐圭、阪巻正志、宮田昌彦
アントレ2018.夏号 「やっちまった」も財産だ 起業家7人の ザ・失敗より