起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第33回・オリンピックのレガシー
いきなりですが、クイズです!
利用するのがビジネスパーソン、特に男性の「おじさん」といわれる世代であることに着目してください。彼らが気軽に安く利用できるなら足を運びそうなサービスを、いろいろな角度から考えてみましょう。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
駅構内や改札付近の空きスペースを利用して、人通りの多い場所にちょっとしたお店が出されることが増えています。和菓子やケーキなどのスイーツをワゴンで販売していたり、小規模の物産展のような催事が行われたりするケースはよくありますよね。
また、「駅ナカ」までとはいかなくても、気軽に立ち寄れるようないくつかのお店ができ、多くの利用客で賑わっていることもあります。特にターミナル駅や、ビジネス街に近く乗降客が多い駅ではよく見られる光景の1つです。
電車通勤をしている人からしたら、ほぼ毎日利用する駅という場所に新しいお店ができれば気になるものですし、興味が持てそうなお店なら一度利用してみようという気持ちになりそうです。
今回のクイズで取り上げたビジネスは、まさにそうした顧客心理をうまく捉えたもので、なおかつ「早い」「安い」サービスがウケた例なのです。
それでは解説します!
「ブラジリアンワックス脱毛」をご存じでしょうか。特殊な脱毛ワックスを使って毛根からむだ毛を処理する美容サービスの1つで、最近ちょっとしたブームとなっています。
実は最近、駅構内に出店するビジネスとして注目を集め始めているのが、このブラジリアンワックス脱毛の技術を使った「鼻毛カット」サービスなんです。専用のワックスを使えば、ほんの数分ではみ出た鼻毛が簡単に処理でき、しかも値段も1000円程度ということで、見た目を気にするおじさんたちにウケているのだとか。
鼻毛は3〜4週間で伸びると言われていますから、たまに出店していれば困りません。次に見かけた時に、「そろそろ行っとくかな」と足を運ぶことができればそれでいいのです。そうなると、移動店舗であることがちょうどよかったりします。
端から見たら全く気にしていないように見えても、自分の身だしなみに興味がない男性はいないはずです。特に職場に女性がいれば、“見た目”や“におい”など、清潔感に気を遣わないわけにはいきません。だからといって、自分でわざわざお店を予約して美容室やサロンに行ったり、むだ毛の処理やにおいを含めた体質改善に積極的に取り組むかというと、余程のことがない限りやらない人がほとんどでしょう。
そんな時に、わざわざ足を運ばなくてもいい場所に、短時間でニーズを満たしてくれるお店があれば、利用してみようかと思うのは当然です。そして、その一番の後押しとなっているのが、「10分1000円」という価格設定で間違いありません。
「10分1000円」は、それだけで価値がある!
「10分1000円」という価格設定は、今時、特に珍しいものではありません。このビジネスモデルの元祖と言われる「クイックカット」は、今でも駅前などに多く出店していて、安定して人気があることがわかります。
ちなみに、私が以前ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)にいた時、社内でのクイックカットに対する捉え方は真っ二つでした。「稼いでいるんだからそんなところを利用する必要はなく、高いお金を払ってでもカリスマ美容師に切ってもらう方がいい」という人と、「タイム・イズ・マネーだから10分でできるクイックカットを利用しない手はない」と考える人にはっきり分かれていました。高給取りといわれるBCGですらそうなのですから、世の中を広く見渡しても、「10分1000円」のビジネスに対する需要は間違いなくあると思ってよさそうです。
安いから行く。それももちろんですが、「10分」というちょっとしたスキマ時間に価値を感じている人も当然いるということ。であれば、そこにどんなアプローチができそうか、考えてみるのは面白いかもしれません。
鼻毛カットを参考にすれば、髭や眉毛を整えてくれたり、口臭や体臭の解消につながるようなサービスは大いに考えられます。ツボ押しや、頭皮マッサージのようなものも、ニーズはありそうです。
タイム・イズ・マネーな世の中に、どんなビジネスが有効か?
スマートフォンが普及し始めた頃から、人々の「可処分時間」について議論されることが増えたように思います。今や、ビジネスを考えるうえで「時間」の視点なくしては成立しないほど、「タイム・イズ・マネー」な世の中です。ゆえに「10分1000円」のビジネスは、それだけで価値があるともいえます。
まだまだ可能性を秘めている「10分1000円」のビジネス。どんなサービスなら実現できそうか、そのお店をどんなところに出せば便利そうか、鼻毛カットのサービスを参考にいろいろと考えてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「鼻毛をカットしてくれる」でした。ちなみに、ブラジリアンワックス脱毛ですが、専用キットを購入すれば自宅でもできるため、わざわざお店に行かなくてもいいのです。しかし、加減がわからず鼻毛を抜きすぎてしまったり、うまくできずに痛みをともなったりすることもあるみたいですから、お金を払ってプロにやってもらうメリットは大いにありそうですね(笑)。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博