起業や開業のノウハウ記事はよく見かけますが、その逆の会社をたたむ際の倒産や譲渡、整理の情報はあまり多くありません。しかし、起業時に気になるのは、こういった実情ではないでしょうか。
「会社を潰すことになった場合、タイミングをどう見極めればいいのか?」
「再起不能にならず、再起をかけるために決してやってはいけないことは?」
ということについて、シリアルアントレプレナーのTさんにお話を伺いました。Tさんは40代(男性)で現在も会社経営者。新卒で入った会社を3カ月で辞め、これまで7社の会社を立ち上げたり閉じたりしてきた方です。
<お断り>
Tさんは、匿名表記にしています。また、事実関係を曲げない範囲で多少脚色してあります。あらかじめご了承ください。ノンフィクションですので基本的な内容は全て事実です。
20代、輸入先からの仕入れと販売に明け暮れた会社経営
―― 最初に興した会社ではどんなビジネスをされていたんですか。
Tさん:物販です。いろんな商材の輸入販売ですね。スタートは2000年なので18年前。まだ20代前半です。
―― すでに輸入ビジネスのノウハウを持っていたのですか? それとも別のキッカケがあったのですか?
Tさん:知人から話が回ってきました。もともと「起業したい」って周囲に吹聴していたので、周りも「Tは起業したいのか」と認識して声をかけてくれる。そういうご縁ですね。大学の同級生からの紹介みたいなところからです。
―― 「これがやりたい」と決めていたわけではない、と。
Tさん:そうですね。なんとなく「輸入の仕事がしたいな」と考えていたくらいです。最初の輸入物販は3年くらいやりました。その頃、とある国で見かけた、とある商品が日本でも売れるんじゃないかと思ったんです。ちょうど日本でネットオークションが流行りだした時期で、試しに出品したらボコボコ売れました。ただ、扱っていた商材が有限資源でどんどん枯渇してしまいましたし、その商材は需要があると知った他の業者も輸入し始めて、買取価格が上がってしまいました。
―― ということは、あまり長続きはせず?
Tさん:為替の問題などで、あまりおいしくなくなってきました。で、別の商材のほうがビジネスになるのではないかと思い、シフトチェンジして、徐々に違うビジネスにスイッチしていきました。
―― 別会社を設立したのですか?
Tさん:ええ、新しい商材を専門で扱う別の会社を立てて、パートナーと世界の展示会を回りだしたんです。今でこそ個人の輸入ビジネスは当たり前になりましたけど、当時は日本でバイヤーというと大手企業しかいなかった。彼らは1商品1,000ロットというような大口で買う。でも、世界には数個単位で売ってくれる業者さんもいて、そういう業者さんを根気よく探して、買ったものをコンテナに詰めて日本に送り、オークションで売る…というようなことをやりだしました。
―― 個人相手に売ってくれるものですか?
Tさん:海外では若いとナメられるので、売ってくれなかったりもしますよ。大手企業が来ているところにいきなり名もない20代のバイヤーが数人で来てオーダーしても、「本当に支払いをしてくれるのだろうか」と疑われます。だから、そこは現金でバーンと払わないとダメ。大手企業は信用取引ができるけど、僕らは現金商売で立ち回る。
―― なるほど…。
Tさん:いろんな国を回りましたね…インドネシア、インド、デンマーク、中国…まぁ中国は当時安かったので中国に倉庫をつくって、香港に会社をたてて取り引きしつつ、日本の会社に売るというようなこともやりまして。
―― 会社の規模はどれくらいだったのですか。
Tさん:社員6、7人でした。オークションで売るビジネスで年商3億円程度ですね。粗利がすごく高かったので、かなり儲かりましたね。
―― 当時は20代後半なので、同年代の人と比べると、比較にならないくらいの収入があったんじゃないですか。
Tさん:仕入れにお金をどんどん使っていたので、どうですかね(笑)。ベンチャーキャピタルなどはない時代だったし、銀行も若い人たちに投資・融資しようという土壌はなかったですね。だから自分たちで資金を作るしかなかった。どんどん仕入れて、どんどん売ろうって感じで働いてました。億ションに住むとか、そういう感じではなかったですね。
会社をうまくたためる経営者と決断を先延ばしてしまう経営者の差
――ビジネスはうまく回っていたけれど、会社が潰れたのですか? それとも潰したのですか?
Tさん:どっちになるのかな。まあ、法律手続きはやっているので“潰れた”ですね。日本に店舗も出したけれどまねをする業者が増えて、参入障壁が低くなってきたタイミングでオークションの粗利益も落ちてしまいまして。
―― だんだん厳しくなってきたわけですね。
Tさん:すでに、そこそこの会社規模になっていて、固定費が発生する。最終的に上場企業のグループ会社になる目的で2008年位まで経営して、とある東証一部上場企業からお金を借りてそこのグループ会社になる…と目論んでいたんですけど、リーマンショックで本丸が炎上してしまい、もう駄目だ! となって潰れた感じです。
―― その時点での会社の規模はどれくらいでした?
Tさん:年商で6億円~7億円くらいでした。
―― 海外に工場建設とか、手を広げたぶん失うものも大きかったと思います。それでも、再起を遂げていますよね。会社をたたむコツみたいなものはありますか?
Tさん:撤退タイミングの見極めが大事かなと。再起できる人は事業に執着しない。損切りがうまいですよ。失敗した社長の話もたくさん聞きますが、最後までしがみつくとハードランディングしちゃう。上手な人は「事業を好きでやっている」とは言いますけど、ちゃんとそろばん勘定ができていると思います。
―― 撤退ラインをあらかじめ引いているのですか。
Tさん:そうだと思います。商売の赤字が…たとえばネイルサロンのお店をやっているとして、いま3カ月目で赤字だけど、もう半年やって軌道に乗らなければクローズしよう、とか。
―― そこから先、ひょっとすると上向くかもしれないけど…。
Tさん:でも潔く切っちゃう。潰れかけの会社の再生支援ビジネスを2年ほどやった時期がありまして、その経験でいうとズルズルと意思決定を先延ばしして損切れない社長さんもいました。もうやめた方がいいといくら訴えても決断できない。で、お金はどんどん減って行き詰まる…。
―― 事業がかわいいというか、愛着があるのでしょうね。
Tさん:土壇場で水戸黄門が来て助けてくれる、大どんでん返しが待っている…みたいな、一発逆転を期待している感じではありました。何かにすがればうまくいくみたいな思考停止に近い状態は赤信号で、こうなるともうダメ。
優先順位を決め、払うべきものを払い、逃げなければ再起は可能
―― 過去に何社も作ったり潰したりしていらっしゃいますけど、過去から何を学ばれました?
Tさん:撤退コストが安いビジネスをやること。参入コストの低さよりも、どんな状況になっても撤退がしやすいってことが大事。
―― 撤退ラインを決めるだけでなく、撤退しやすい事業をする…と。
Tさん:「債権者に対してお金が払えなくなること」が倒産なわけですが、撤退が早い人は、にっちもさっちもいかなくなる前に事業停止をし、解散します。財産が残っているうちにたたむわけですね。リストラするときは退職金を払わないといけないので、まとまった額が必要なんですよ。これが払えないと夜逃げしか道がなくなります。退職金を払える段階で撤退か否かを見極めて行動しないといけないんです。
破産手続きにのってしまうと、一番強いものの1つが税金で、債権の中では税金をまず払わねばなりません。支払いが1,000あるけど残高が500しかない。そうなると誰かに500泣いてもらうことになるわけですが、税金は先なんです。税金は強いし、破産しても残る。
―― 国はとりっぱぐれないのか~。
Tさん:ただ、国とは交渉ができますけどね。分割払いができたりとか。
―― 極悪ではないと。
Tさん:そうです。1,000の中で500払う順番と誰を泣かせるかを決める。この誰を泣かせるかを決めることによって、次の再起が決まる。たとえば、従業員に給料を払わないと夜逃げですよね。これは最悪。やってしまうと再起はそうとう難しい。
―― すごく恨まれるでしょうし…。
Tさん:その業界で失敗しても、また同じ業界に戻ってくる人は多いです。業界に顔向けできるように、仕入れ先、お取引先にはちゃんと謝ってしっかり払う。この「謝る」のがつらくて逃げちゃう人がいる。
―― 謝らず、支払いもしない?
Tさん:そう、弱い人は逃げちゃうんです。恥ずかしいことですけど、相談、交渉する。カッコつけないということですよね。男性はカッコつけたがりますけど…。お金が理由で自殺する人もいます。その点、女性のほうがリアリスト。女性は結構、しゃべるじゃないですか。「つらいわあ」とかなんとかって。男は耐えてしまう。耐えるのが美徳で武士みたいな雰囲気ありますよね。
―― なるほど。
仲間や取引先には絶対、払うべきものは払う。税金は交渉する。僕の場合は会社を分割して、同じ業界内で変な風評被害を立てられたくなかったので、仕入れ先にもちゃんと誠意を持った対応をしました。泣かせるのは…親族とか。友人などに対して、ちょっとずつ弁済するとか。個人的なつながりのものは、泣いてもらうというか、謝って延ばしにしてもらうとか。あとは、今後、銀行から借金をしないと思っていたら、銀行と交渉する。どのみち借りられないですけどね。
―― 学んだのは、そのあたりということですね。
Tさん:優先順位を大切にする。逃げない。問題が知恵の輪みたいに絡み合っているように見えるんですけど、1つずつ冷静にほぐして、支払先の順番、優先順位を決めて整理していく。整理には多少の余力が必要なので、早めに撤退する。組織規模の大小はあまり関係ないので、そういう意味ではフリーランスでも同じかなと。
―― タイミングを見極めるには、お金の流れを経営者がちゃんと把握していないといけないですね。
Tさん:今はクレジットカード決済だったり、いろいろなサイト、回収方法があるので請求と回収とでズレが生じますよね。キャッシュフロー表を見てちゃんと残高がマイナスにならない、あるいは残高がここ以下にならないというものを、しっかり見つめながら経営することが大事ですね。月3回くらいでいいと思います。
―― はいはい。
物販をしている人は月末支払いが多いでしょうけど、あとはメーカーによって変わってきたりすると思うので、20日締め、25日締め、月初、中旬、最後は月末。小さいうちは、2回くらいちゃんと残高を見ておくことですね。
―― 会社を立ち上げたばかりのところでは、そこまで頭が回らないというか。教えてくれる人もなかなかいなそうですね…。
Tさん:税理士の先生は教えてくれないですよね。キャッシュフローとかは見ないので。キャッシュフローを見られるのは、これはもう経営者しかいない。経理担当に丸投げすると、税理士の先生が経理の人に「これ、やって下さい」で終わっちゃうじゃないですか。キャッシュフロー管理は経営者がわかっていないといけません。一見ヘラヘラしている社長でも、キャッシュフローは自分で見ているとか、振り込みは他人任せにしないという社長がけっこういます。
一度失うと取り戻せない“信用”はお金以上に重要
―― 会社を潰すって、精神的にもお財布的にもダメージが大きいと思うんですが、何が一番ハードな経験でしたか?
Tさん:まず健康に支障をきたします。「借金で首が回らない」って表現ありますよね。あれ、本当に物理的に首が回らなくなるんです(笑)。僕の場合は、首以外にぎっくり腰と難聴にもなりました。ストレスで眠れないし。絶えず頭がボーっとしているというか、シャキッとしませんでした。あと、眠れないとストレスで酒が進みます。
―― よく聞く話ですね…その先は何が?
Tさん:お金がなくなると、結婚しているか否かが…大いに関係します。あとは自己資産を持っているかどうか。家の場合だと、賃貸だったら安いとこに引っ越せばいいですが、持ち家の場合は差し押さえがくる場合があるので、それは事前にしっかり配偶者に伝えること。子どもはともかく、夫婦間で仕事のことは日頃から話しておくこと。僕も「経営状態が芳しくないときこそ話せ」と先輩経営者に教わりました。悪いときこそ、悪いニュースこそ話せ、と。
―― そういうものなんですね。でも話しづらい…。
Tさん:事業計画でもそうですけど、良いシナリオ、普通のシナリオ、悪いシナリオ、大体3つのシナリオがあって、これをちゃんと配偶者や婚約者と共有しておくことが大事じゃないですか。それで逃げる相手だったら、それはしょうがないでしょう。ただ、周りを見ているとむしろ女性のほうが肝は据わっているようで、「そうなの? じゃあ、もう一回頑張りなよ」って励ましてくれたりするそうです。
―― 精神的なサポートがあるのは心強いですね。とはいえ、独身のほうが楽な気もしますが。
Tさん:ええ、やはり独身のほうが楽です。関係者が少ないので身軽。会社をたたむなら身軽なうちにやったほうがいい。まあ、背中を押してくれるとか、ケツに火が付くっていう部分では家族の存在意義もありますけどね。
―― 今もトラウマがあったりします?
Tさん:お金が足りないときに来る“ゾッとする感”ですかね…。残高が足りない! となったときの背筋が凍る感覚は体が覚えてます。
―― 生きた心地がしなさそうですね…。
Tさん:『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平/小学館)じゃないけれど、お金は所詮お金だから頑張れば稼げます。でも積み上げてきた信用を失うのはもったいない。会社がつぶれかけのときには生きるのに精いっぱいで、わけがわからないですが、全て終わったときは逆にスッとする部分が多いですね。「ああ、なんかいろいろ片付いたな」みたいな。債権者から電話も鳴らなくなり、各所での交渉も終わり、ゼロになった感じですね。日々責め立てられているので、それがなくなってくると、まるで嵐が過ぎたよう。
―― 会社がつぶれてしまっても信用は残る? もしくは残さなきゃいけない?
Tさん:信用は残せます。でも夜逃げしたら本当に最悪。おしまいです。給料遅配なんてしたら戻って来られないです。それこそ、日本を捨てて海外とかで生きていくしかなくなってしまう。
―― 夜逃げは絶対にやらないほうがいいんですね。
Tさん:やらないほうがいい。昔は、サラ金とかからお金を借りると厳しい取り立てがあったじゃないですか。でも今は債権者からの取り立ては18時くらいまでかな…法律で決まっているんです。「内臓売れ!」とかも当然NG。そういう意味ではだいぶマシな世の中になったので、逃げる必要がないです。命も取られません。
―― 東京湾に沈められる…とか、そういうことではない、と。
Tさん:ないです、ないです。
―― 多少日常生活で困るとか、クレジットカードをつくれないかな、みたいなことはあるかもしれませんが。
Tさん:そうですね。せいぜいそんなところ。細かいところからは逃げればいいと思うんですけど、大きく逃げる…自分の人生から逃げるというのはよくない。お金よりも再建のためには、信用のほうが大事です。誰かと共同でおこすなら信用できる人と組む。人間、本当につらいときに本心が出てくるので、やっぱり、逃げ癖のついている人もいるし。こいつ、弱いなという人もいます。
―― 事前に見抜けないですかね?
Tさん:さすがにそれは見抜けないですねー。有能な人、時代の寵児みたいにかっこよく光が当たっている人も、最後には逃げるということも珍しくないし。かっこつける人ほど、きっと孤独なんじゃないかと感じます。「俺はほかの連中とは違うぜ!」と、かっこつけている人ってプライドが高くて孤独なので、逃げる可能性もあると思います。逆にへらへらしていてプライドのない人のほうが人間臭いというか、そういう人のほうが逃げない印象はあります。
―― 自分の弱さを認めることができるか、できないかの差でしょうかね。
Tさん:「お前のほうが得意だからやってくれない?」って、人に素直に頼れる人っているじゃないですか、社長でも。そういう人のほうが逃げない気がしますね。
課金型ビジネスはいろいろ安心
―― 今も、ご自身で事業をされていらっしゃいますが、仮に別のビジネスを始めるとして、スモールに開始して撤退しやすいモノを選びますか?
Tさん:ええ、撤退のしやすさは大事ですね。あとは譲渡しやすい事業。たとえば、僕の名前を売って事業を成長させると、僕の名前に事業がひも付いてくるわけです。これをやってしまうと譲渡しづらい。僕にしかできない商売なので。
―― 良くも悪くもブランド化してしまうと売りにくい、と。
Tさん:(手元のパソコンに眼をやって)たとえばパソコンであれば、消費者は製品がほしいわけで社長は極論、誰でもいいことになる。商品やサービスが愛されていると売却しやすい。あともう1つは「継続課金」があること。
―― 月次課金ですね?
Tさん:お金が毎月入るのは絶対大事。お金の残高は心の安定性とつながります。
高単価商品がドーンと売れるほうが儲かりそうなイメージですけど、景気の波を絶対受けます。自分は絶対に継続課金ビジネスしかやらないつもりです。
―― 今は月次課金ビジネスですが、心の平安は物販時代に比べて違います?
Tさん:全然違います。眠りの質が違いますね(笑)。バーンと大儲けできないけど、それは求めていない。バーンと上がるとバーンと落ちるものです。ちょっとでいいので右肩上がりで成長すればOK。ちゃんとスタッフにお給料が払える。余計な心配をしなくて済む、病気しても収入が入ってくる…のは大きい。
社員による使い込みや横領はわりと“経営者あるある”
――かなりの回数、会社を作る、たたむ、をされてますけど、ペーパーワークは効率的にやってこられたのですか?
Tさん:インターネットがあまり進化してない時代でもあったので、いい士業の人を見つけて、お願いすることが多かったです。
―― けっこうお金もかかりますよね?
Tさん:友達をたどれば士業の人っていっぱいいるので、まずは士業の人と仲良くなるとこから。インターネット経由で問い合わせても正規の値段を提示されるだけなので、まずは友達を通じて仲良くなる。起業したいと思えば、誰か周りに起業している人がいると思うんです。その人たちは税理士、司法書士に依頼しています。まずは、仲良くなるということが重要じゃないですかね。
―― 1つ気になったのが、会社をたたまないといけないとき、すごく悩まされるじゃないですか。社外の誰かに相談したことはありましたか?
Tさん:していましたね。パートナーとも相談するし、信頼できる税理士さんには相談していました。あらゆることを想定して、前倒しで考えておく。「会社がつぶれるかもしれない」と思ったのが2006年だったんですけど、3年くらいなんとか延びたので、あらゆることを考えておくというか。
―― そのとき経理の方と相談は?
Tさん:それが、中小企業は経理が本当に定着しないんです。起業直後は社長本人がやるものですが、1億円くらいが限界でしょう。作業は夜にやるんですけど、そのうち会食が増えて、酔っ払ってしまって「寝ちゃえ」ってなって。「ヤバい、先月分をやってない。今月やらないと、領収書が山積みだ」となる。現金を扱うようになってくると、不安要素もあって信頼を置ける人でないといけないし。なぜなら不正ってわりと起きるので…。
―― 社内で? 横領とか?
Tさん:経理の人がお金を抜いちゃうことは多々あります。中小企業は杜撰だったりして伝票を手書きで適当に改ざんできちゃったり。会計事務所に振っても、会計事務所の職員が悪さをするとか…っていうのもかつてはあったらしいです。決算のときに「なんか現金がふくらんでいるけど、そんな金庫に入っていたっけ? 確認しよう」ってなって「数万しかない! あれ? 300万円下ろされているじゃん、これなんだ!?」って発覚する。
―― そうなってからでは手遅れ?
Tさん:まあ犯人の目星はつきますけどね…。問い詰めて、犯人が認めて「刑事事件にはしないから分割で返しなさい」ってなるみたいです。すでに辞めてしまっていて追いかけられないケースもありますが。
―― それって社長あるあるなんですかね?
Tさん:かなり社長あるあるですよ。バイトに持ち逃げされるのも珍しくない。友達の同級生に経理を任せていたことがあって、彼が大金を抜いたことがありました。そんなのバレるに決まっているのに…。
―― 最初から計画的に逃げることを考えてやっているんでしょうかね。
Tさん:ギャンブル好きとか、借金が膨らんじゃうとか、ドラッグが好きとか歯止めがきかなくなる人もいるかもしれない。飲食店とかはよくあるじゃないですか、手数料を取られるのがもったいないから現金のみってお店。手数料を払いたくないというオーナーの意向だと思うんですけど、中の人間に抜かれるリスクはあります。
ちなみに僕の実家は現金商売をやっていたんですけど、親父も被害にあってます。知人経営者からも似た話を聞くし、表ざたにならないだけでそこらじゅうで起きている。結局、カード決済にして現金を扱わないようにするとか、大事ですね。
―― そんな日常茶飯事に使い込みが発生しているとは…。
Tさん:個人的な感覚ですけど、10社あったら1~3割くらい経験している気がします。
会社員より、自由と責任を背負う経営者のほうがいい
―― それだけ、いろいろなトラブルとリスクがあるにもかかわらず、会社員に戻ろうと思ったことは?
Tさん:ないです。戻れないと思います。3億円サラリーでやるからと言われてもやらないですね。
―― お金じゃないということですか?
Tさん:経営者は時間を自分でコントロールできる。全て自分の責任なんですけど、逆に言うと人のルールの中で生きなくていい。もちろん、取引先とのルールとかはありますけど、自分でコントロールできるのが大きい。
―― 自由と責任を全部負うほうがいい、と。
Tさん:そう。勤めている会社が倒産するかどうかって社員にはコントロールできないですよね。飛行機に乗っている状況と一緒で、いわばパイロット任せじゃないですか。そういう状況は怖い。
―― 人に使われるのも性に合わない?
Tさん:けんかしちゃうでしょうね。組織には組織のルールがあるじゃないですいか。お客さんのためじゃないのに、やらないといけないこととか、誰のためにやっているのかわからない仕事はもうできないです。
―― 新卒時代もそれを強く感じた?
Tさん:3日で辞めようと思いました(笑)。もともと学校は嫌いだし、協調性がなくて集団行動も苦手なんです。日本企業の特徴のような気がするんですが、社員を信用していないじゃないですか。信用しないベースで組織が組み立てられているという気がするんです。「不正、するんでしょ?」「さぼるんでしょ?」という目で社員を見ますよね。サボるだろうからリモートワークはダメ…とか。
―― 今後やっていきたい新しいこととかもあったりしますか?
Tさん:今のところは、この事業で精いっぱいだし、先はまだ大きくなるなと伸びしろは見えるのでそれに集中したいです。光が当たる仕事よりも、地味な仕事のほうが好きというか、優秀な人が入ってこない。かっこよさや華やかさはないかもしれないですけど、そういうのは儲けてプライベートでやればいいかな、と。
―― 仕事でカッコつけようとかは?
Tさん:一切ないです。かっこつけて会社が潰れるくらいなら、便所掃除します。便所掃除をやったら儲かるのかなとか考えます。
―― 自己顕示欲みたいなのはなさそうですね。
Tさん:自己顕示するには金がかかるんです(笑)。かっこつけるために消費するようになる。だったら、そのまま広告費に投入したほうがいい。かっこつけるお金で、お客さんをゲットしたいので。
―― 私もカッコつけずに堅実的に商売しようと思います! ほかでは聞けない貴重なお話、ありがとうございました!
目次
- 1.会社の経理を始めるために
- 2.法人の決算に必要なものまとめ
- 3.貸借対照表で会社の資産状況を把握しよう
- 4.損益計算書で会社の利益を把握しよう
- 5.法人のための税申告・納付まとめ
- 6.法人にかかる税金は9種類もある
- 7.税金を滞納したら、どんな罰則がある?
- 8.法人のための節約のコツ
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