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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第33回・オリンピックのレガシー

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第33回・オリンピックのレガシー

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

2012年に開かれたロンドンオリンピックのメインスタジアムは、8万人を収容するスタジアムとして建設されましたが、それまでの様々な国際大会の会場のコンセプトとは違った建物として知られています。しかし、2020年に控えている東京オリンピックではこのコンセプトは採用されておらず、非常にもったいないという声も上がっているのですが、さて、ロンドンオリンピックで初めて採用されたスタジアムのコンセプトとは、一体どのようなものでしょうか?

オリンピックのレガシーの問題は、よくニュースでも取り上げられましたよね。「大会終了後に危惧されることをいかに回避するか」がポイントです。何が問題になりそうなのかを考えてみてくださいね。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

オリンピックやワールドカップといった国際的なスポーツイベントが開かれる際は、たくさんの人が観戦できるように大きなスタジアムが用意されます。

2020年の東京オリンピックにまつわるニュースの中でも、「レガシー」という言葉がよく使われていましたよね。建設される建物のほとんどは、オリンピックの“遺産”として大会後も活用されるのが当たり前です。

つまり、新しいスタジアムを建設する際は、先々の使用まで見越して作られるわけです。その点で、2012年のロンドンオリンピックのメインスタジアムは、画期的ともいわれる発想で作られた建物でした。そして現在行われているロシアのサッカーワールドカップでも、日本対セネガル戦が行われたエカテリンブルク・アリーナでこの発想を取り入れているようです。

それでは解説します!

大きなスタジアムであればあるほど、危惧されるのは「維持費」の問題です。

大会期間中はいいでしょうが、大会終了後に8万人も入るイベントというのは、なかなか考えにくいものです。レガシーですから、そう簡単には取り壊せません。使わないで置いておくだけでも相当の維持費はかかるでしょう。

そうした問題を見越して、ロンドンオリンピックのメインスタジアムは、史上初めて「減築できるスタジアム」として作られました。つまり、座席などが取り外しでき、スタジアムそのものを小さくできるのです。

8万人収容するオリンピックスタジアムの役目を終えた後は、減築して最適値と言われる2万5000人規模のスタジアムに変身する。そうすることで用途が広がり、維持管理もしやすくなるわけです。

飲食店がグループ傘下にいろいろなお店を置く理由は?

この発想は、ビジネスのシーンでも大いに生かせます。というのも、ビジネスの現場では実はよくあることなのです。

ピークに合わせてオペレーションを決めてしまうと、利益が出にくいコスト構造になってしまいます。ですから、最適値を見つけておき、そこに合わせた仕組みを考えておく必要があるわけです。さらに、ピーク時に合わせてどうやってストレッチするのか、つまり「足し算・引き算の発想」で準備しておくことも非常に重要でしょう。

よくあるのは、飲食チェーンなどが急激に人気となり、店舗やオペレーションの数を一気に増やそうとするケースです。一気に広げたことで、後になって維持できなくなってしまう…これは失敗例ですが、イメージはしやすいかと思います。

この足し算・引き算の発想をうまく取り入れているのが、飲食チェーンです。最近はグループの傘下にいろいろなポートフォリオのお店を用意する会社が増えていますが、これがまさにそうなのです。

例えば、餃子が流行ったら餃子のお店を増やす。ブームが一段落したらその店舗を減らし、別の業態に散らす。つまり、グループの中で増減できるようにしておくことで、消費者の気ままな変化に柔軟に対応できるようにしているわけです。そしてこれは、今の飲食店の基本設計になりつつあります。

最適値に合わせて増減できるオペレーションを考えよう

事業を始める際は、どうしても「あれにもこれにも対応できるようにしないと」と考えてしまいがちです。その結果、そもそも利益が上がりにくい構造で事業をスタートさせてしまったり、余計なものにコストをかけて経営を圧迫してしまうことがあります。

そうではなく、例えば「一時的にオペレーションが増えそうだと分かっているところはパートナーに外注する」など、足し算・引き算の発想で準備しておくことができれば、無駄もなくなり、余計なコストもかからなくなります。

非常にありがちな失敗なのに、意外と見落としがちですから、ぜひ頭に入れておいてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「減築できる」でした。一定以上の年齢の方には懐かしい話ですが、「ナタデココ」がブームになった時に各メーカーがこぞって東南アジアなどに工場を作って生産しましたよね。しかし、ブームはあっという間に終わり、工場の縮小や取り壊しを余儀なくされたのです。ぜひ、ナタデココの教訓を事業で生かしましょう(笑)。


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』 (講談社+α新書)。

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