行動力。
いくらいい企画、考えがあっても、行動を起こして形にできなければ、何も変えることはできません。そういう意味で独立・起業を考えている人にとって、行動力はとても重要な力です。
今回お話を伺ったのは、鍼灸師でグラフィックデザイナーの工藤正起さん。
工藤さんは国家資格を取得した後、鍼灸院として開業。鍼灸師として順調にキャリアを歩みだしたにもかかわらず、開業から1年後に突如アフリカへ渡ります。
そして現在は鍼灸師として仕事をする傍ら、グラフィックデザイナーとしても活躍されています。
今回はそんな工藤さんの半生を振り返るとともに、行動をデザインする力について伺いました。
工藤正起(くどう・まさき)さん
鍼灸師/グラフィックデザイナー
1993年生まれ。
愛知県岡崎市出身 鍼灸の専門学校卒業後、愛知県岡崎市にて鍼灸院を開業。
現在は東京に拠点を移し、「健康をデザインする」をテーマに、個人宅、会社、趣味の場など個人それぞれにあったライフスタイルに入り込み施術をする。
またグラフィックデザイナー・映像制作アシスタントなど、鍼灸師以外にも幅広く活躍。
もし失敗しても、いくらでもやり直しがきく。若き鍼灸師が、資格取得後いきなり開業した理由
―工藤さんはなぜ、鍼灸師になられたのでしょう?
僕は商業高校に通っていたため、大学進学ではなく就職する、という選択肢を選んでいる人がたくさん周りにいました。
しかし「毎日会社に勤めて、働く」ということが、いまいちピンとこなかったんですよね。
そこで自分が興味のある分野で資格を取り、手に職をつけようと考え、選んだのが鍼灸師になるための専門学校でした。
―なぜ鍼灸だったのでしょう?
僕は小さい頃からサッカーをしていたので、スポーツをする人の役に立てる仕事に就きたかった、というのが当初の目的です。
体の不具合を治療し、健康に運動ができるようサポートするってステキだなと思ったんです。
そして専門学校を卒業して国家資格を取得し、鍼灸院を開業しました。
―資格取得後すぐに開業されるのは、非常に珍しいケースだと思うのですが…?
そうかもしれませんね(笑)。
しかし既存の鍼灸院でいわゆる「修行期間」を取らなかったのには、2つの理由があります。
1つ目の理由は、専門学生時代に知り合った鍼灸の師匠が、どこの院にも勤めずにフリーランスで仕事をしていたからです。
その背中を見ながら学んだので、早い段階から自分の鍼灸院を持つことを目標にしていた節がありました。
2つ目の理由は、若いうちに開業しておいた方が、何かとリスクが小さく済むのではないかと思ったからです。
僕は、21歳で国家資格を取得し、その年に開業をしました。
既存の鍼灸院で修行を積んでから開業、となると当然今よりも年を重ねて独立することになります。
もちろん経験を積んでからの独立、という形のほうが鍼灸院を運営する上で必要なノウハウを蓄積できますが、それと引き換えに結婚の時期と重なったりと、ライフイベントとかぶってしまう可能性も大いに考えられます。
それに21歳で開業してもし失敗しても、まだ若い分、いくらでもやり直せるだろうなとも思いました。
こうした理由から、地元愛知県で開業するに至りました。
「できない理由」を可能な限り潰す。行動をデザインする力
―開業後は順調でしたか?
実家の近くに事務所兼自宅を借りて鍼灸院を開いてから、地元の方を中心に徐々にお客さまに来ていただけるようになりました。
Webでの集客にも挑戦して、鍼灸院も軌道に乗ってきたのですが、わずか1年ほどで鍼灸院は一旦辞めることにしました。
―なぜですか?
開業して1年目の夏に、アフリカへ行きたいと思ったからです。
とはいえ当時はまだ開業したてでお金もなかったので、鍼灸院を1年ほど運営しお金を貯め、開業して2年目の夏に一旦鍼灸院を閉め、アフリカへと渡りました。
―せっかく開業を果たしたのに、なんだかもったいない気もします…。
そうですね(笑)。
でも、フットワーク軽く切り替えることを視野に入れた上で、開業をしているので。
資格があれば、とりあえず職に困ることはありませんし、何より「アフリカに行きたい!」と思った自分の好奇心を大切にしたかったんです。
―どれくらいアフリカに滞在していたのですか?
ビザが切れるまでの3ヶ月間です。現地では鍼灸のスキルを活かして、現地の人の治療をしていました。
―そして日本に帰国し、現在は何をされているのでしょうか?
帰国後は上京し、事務所を持たずにフリーランスで鍼灸師の仕事をしています。
他にも愛知で開業していた時に、独学で学んでいたグラフィックデザインを活かして、デザインの仕事も受けるようになりました。
―鍼灸とグラフィックデザインとは、全く異なるお仕事の両立ですね。
それがそうでもないんですよ。
鍼灸の治療も、デザインの仕事も、結局「相手が喜んでくれるポイントを探って提供する」ということは一緒なんです。
そして「鍼灸師×グラフィックデザイン」という掛け合わせなので、僕と同業である鍼灸院からのお仕事の依頼も多いんです。
鍼灸業界は普段からWebに触れる機会が多くありませんから、Webにあまり強くない傾向があります。
―サイトのロゴやイメージはそれぞれの鍼灸院によっても違いますし、それをきちんと言語化してオーダーするのは、意外と難しいですよね。
はい。だからこそ鍼灸師でもあり、グラフィックデザインもできる僕がお仕事をいただけるんだと思います。
―鍼灸の道に進んだことも、アフリカへの旅も、グラフィックデザインのお仕事も、工藤さんのこれまでを振り返ると、ご自身の興味のあることへのフットワークがとても軽いですよね。
そうかもしれませんね(笑)。
僕はただ、自分がふと感じた「おもしろそう!」とか「楽しそう!」といった感情を行動に移しただけ。
よく「単身アフリカに行くってすごいね」と言われたりするんですが、冷静に考えると、僕が起こした行動って「アフリカ行きのチケットを購入したこと」「そのチケットを使ってアフリカに行ったこと」だけなんです。
多少のお金と時間があれば、おそらく誰にでもできることなんじゃないかなと思います。
―でも、その1歩が重かったりするんですよね。
ええ。その理由は、たった1歩の行動よりも前に「できない理由」を探してしまうからです。
「僕がアフリカに行けない理由」も、挙げようと思えばいくらでも挙げられました。
僕は英語もできないし、現地は治安も悪い。開業していたので長期間店を空けるわけにもいかないし、お金もなかった。
でも「アフリカに行ってみたい」という気持ちを大切にしたかったんです。
言語と治安はしょうがないにせよ、思い切って店は閉めて、お金も貯めました。できない理由をできる限り潰して、その1歩を踏み出してみたんです。
働き方・生き方といった、広い意味での「人の健康」を促進したい
―できない理由を可能な限り潰して1歩を踏み出す、という姿勢はあらゆることにも当てはまりそうです。
はい。
アフリカに行くことに限らず、例えばグラフィックデザインをやりたいなら始めてみればいいんです。
「デザインの学校出身じゃないから」と、できない理由を並べるのは、非常にもったいないと思います。
できない理由を並べるのではなく、どうしたらできるようになるのかを考えることが大切です。
「何かをやりたい」と思う自分の中の好奇心に挑戦するハードルを、もっと下げられるといいですよね。
―その「やってみたい何か」が、今の自分の仕事と新たな相互作用を生むこともありますからね。
そうですね、僕にとっての鍼灸師とグラフィックデザインはまさにそうですから。
鍼灸とグラフィックデザイン以外にも、映像制作やイベントの運営など、今もいろいろなことに挑戦中です。
―工藤さんを見ていると、ひと言で職業を説明できない、いわば「職業:工藤正起」のような生き方を体現されていますね。
まさにそんな感じです(笑)。
鍼灸師として人の健康に携わっていて感じるのが「具体的に患っている箇所を治す」だけでなく、これからはもっと広い意味での「人の健康」が大切だということ。僕は、これを促進していきたいと思っています。
つまり人の働き方・生き方といった病の治療以外の側面から、アプローチできたらと思います。
そのためにもまずは僕自身が、もっと自分の感性に従った自由な働き方・生き方を体現して、選択肢を広げていきたいですね。