起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第29回・できるだけシンプルに
いきなりですが、クイズです!
一言で言ってしまうと、サラダチキンを別の用途で使ってみたところ、それが好評だったというわけですね。どんな使い道がありそうか、いろいろと考えてみてください。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
ある技術や製品がどういう分野で使えるのかを開発することを「用途開発」といいます。その中で、使う人によって解釈が変わってしまい、結果的に本来とは違う目的で重宝がられたりするケースもよくあるといいます。
まさに今回クイズで取り上げたサラダチキンの件も、そうした事例といえそうです。実は用途開発の話がきっかけで新しいビジネスチャンスが生まれやすいというのは、経営コンサルタントの世界では定石です。
本来意図したのとは全然違ったお客が買いにきたり、別の活用のされ方で注目を集めるといったことがあれば、そこには大きなヒントがある、そう考えて間違いないでしょう。
それでは解説します!
元々はコンビニサラダのトッピングとして人気となり、単体のメニューとして売り出したところあっという間に市場ができてしまったサラダチキン。今や、コンビニで気軽に買えるダイエットフードとして、各社力を入れているといっても過言ではないでしょう。
ところが最近、そのサラダチキンをさらに別の用途で買う人が増えているという話があります。
元々は鶏のムネ肉ですから、高タンパクで低カロリー。しかもダイエットフードとして注目されるくらいですから、味付けも薄めで、なおかつお腹も満たされる。そうした点に注目が集まって、サラダチキンを犬などの「ペットフード」として使っている人がいるというのです。
たしかに、ペットフードよりも安くて、しかも大きいので小分けにして数回分に分けることもできます。人間がおいしくいただけるものですから、品質面も安心。どこのコンビニにも置いています。確かに、言われてみたらうってつけです。
これはまさに冒頭にお話した「用途開発」の話ですよね。本来の目的とは違うところで火がついています。
最近は、少子化の影響もあってペットを飼う人が増えており、統計によればペットにかけるお金は年々増えています。ダイエット市場よりも成長が期待されているペット市場だけに、もしかしたらこの先にはかなりの大きなビジネスチャンスがあるかもしれません。
繊維問屋街が訪日外国人たちの観光地に!?
別の用途に注目が集まる、という例で言えば、最近だとドライブレコーダーの話が当てはまりそうです。
最近はドライブレコーダーの価格が下がってきて気軽に買えるようになったことから、車に付けるのではなく「防犯装置」として自宅などで活用する人が増えているのだとか。何かと物騒な世の中ですし、防犯への関心も高まっています。安価で買える防犯装置として、玄関などに設置するという用途は、もしかしたら今後も注目を集めるかもしれません。
もう1つ面白いエピソードとしては、日暮里の繊維問屋街が観光名所になっているという話があります。訪日外国人たちが、こぞって日暮里に買い物に出かけるというのです。
どうやら和柄の民族衣装を作りたいというニーズから、ベトナムやミャンマーといった国の人たちが布を買いに行き始めたのがきっかけのようです。
この日暮里の話については、地元の生活者や業者向けの問屋という場所が観光スポットになっているという点で、本来の意図とは違う人たちに注目されているケースと言えるでしょう。
それは、元々はこどものための遊び場として作られたアミューズメントパークが、「デート需要」によって発展していった話や、工場が観光スポットやデートスポットとして人気になり、挙げ句の果てに写真集まで作られてしまった話とちょっと似ているような気がしますよね。
用途が広がれば、当然ビジネスチャンスも広がる
本来の目的とは違うところで重宝がられるケースというのは、そのものの用途が広がっているというわけですから、ビジネスチャンスも拡大しているということです。
言い換えれば、「これを別の用途で使えないか」という観点で着目してみることで、いち早くビジネスチャンスをつかめるかもしれないということでもあります。ぜひ、いろいろとアンテナをはり、身の回りを見渡してみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「ペットフード」でした。サラダチキンがペットフードになった話を参考に、逆に考えて「ペットフードになりそうな身の回りのもの」について考えてみるのも、アイデアを生み出すいいトレーニングになるかもしれませんね。ビジネスの種はあちこちにあります。大事なのは「それに気付けるかどうか」です。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博