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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第26回・スギか、ヒノキか

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第26回・スギか、ヒノキか

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

この季節、「スギ花粉」に苦しんでいる人は多いと思います。花粉症がこれほどまでに広がった背景には、実は約70年前のある出来事が関係していると言われているのですが、さてそれはどのような出来事でしょうか?

70年前というと、1948年です。その頃の日本の状況を考えてみたら、答えはすぐに出せそうですね。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

春先に多くの人を苦しませ、悩ませるのが「花粉」です。

花粉症の人は年々増えていると言われています。特に都市部では大気汚染などの影響で花粉が化学物質と結びつき、より症状を悪化させているという話もあるようです。

そのせいなのか、最近は鼻や目だけでなく、皮膚がかぶれたり、体内に蓄積された花粉が原因でぜんそくが引き起こされるといったやっかいなケースも増えているのだとか。

花粉症による影響は、人々の生産性を著しく下げているというデータもあるようですから、政府も早く何かしらの対応が必要ですよね。花粉症に苦しんでいる1人として、ぜひともお願いしたいところです。

それでは解説します!

なぜこんなにスギ花粉が舞っているのでしょうか。その原因は、さかのぼると70年ほど前の戦後復興期に大きなきっかけがあると言われています。

それは、戦争で木材が不足したことから、育ちが早くて家屋の木材にも使えるスギの木を日本中で植えるよう政府が推奨した、という話です。

以来、育っては切り、スギの苗を植え続けています。結果、今やあちこちにスギの木が生い茂り、大量の花粉をまき散らしています。

確かに戦後復興期にはスギの木が必要でした。しかし、1960年代、70年代になってくると、木材の輸入が自由化され、国内の木材の価格競争力がなくなってしまいました。

もちろん、吉野杉などブランドを確立しているものもあります。しかし、より太くて立派な木が諸外国から安く入ってくるようになってしまっては、太刀打ちできるわけがない…というのが現状でしょう。

時代は変わりました。だからこそ、多くの人を苦しませるスギを植え続けることを一度絶つべきだ、というのが私の考えです。約70年前の古い政策を、今こそ取っ払うべきではないでしょうか。

とはいえ、いくら「スギをなくそう」と声を挙げたところで、私たちが自らの手で法律や政策を変えることは簡単ではありませんよね。

実は今回のポイントは、法律や政策も含めた「古いやり方」に疑問を持ってみよう、ということなのです。

接待交際費の改正が消費に与えたインパクト

「第3のビール」は、日本の税制が生んだ、世界では売れない日本だけの“変なもの”と言われています。おかげで今、ビール会社で働く研究員の多くは、ビールではないものを使っていかにビールに近いものを作るか、という研究をさせられているのです。

研究が進み、売れる商品ができたとしても、規制によってそれまでの技術が通用しなくなり、新たな研究が求められます。第3のビールの周辺で起こっているのはまさにその繰り返しなわけですが、こうした無駄なことをさせているのも、古い法律というわけです。

「古いやり方」が当たり前のように定着しているところに目を向けてみると、そこにはいろいろな課題や疑問が見えてくるものです。そして、面白いことにそうした古いやり方が変わる時には、ビジネスチャンスが生まれやすいのです。

たとえば「接待交際費の改正」という話は、古いやり方を変えたことでうまくいった1つの例として挙げられます。

大企業において「1人あたり5000円を超える接待交際費は節税されない」という規制をなくしたというのがその話なのですが、結果として企業のお金の使い方を大きく変えました。それまでは「飲み放題付きで5000円以下」といったものが考えのベースにあり、そうしたお店が好まれていたわけですが、金額にこだわらなくなればもっと高くていいものを食べようとなりますよね。

結果、高級な食事を出すお店には大きな追い風となったのはいうまでもありません。さらに消費行動という点でも、日本経済に与えたインパクトはとても大きなものがあったのです。

変化が起こるところには、ビジネスチャンスが生まれやすい

規制に対していくら文句を言ったところで、個人が法律を変えることはできません。しかし、規制や政策が変わるという「変化」を敏感にとらえ、そこにチャンスを見出すことは十分に可能です。

古い規制に縛られていたり、それによって何か不都合を感じるようなことが身の回りにあれば、ぜひ着目してみてください。そして変化を追ってみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「戦後復興の木材不足のためにスギを植えたから」でした。牛を育てるなら雑種よりも黒毛和牛の方が儲かるだろうというのと同じ発想で、スギよりもヒノキを育てた方が儲かりそう、という理屈もあります。しかし、スギとヒノキでは育つスピードが全然違います。「どんどん大きくなるスギを植える気持ちもわかる」と思わず納得してしまいそうですが、やっぱりスギはやめてもらいましょう(笑)


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プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズアタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』 (講談社+α新書)。

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