起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
●経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第14回・VRで世界旅行を楽しもう
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
「スマホがない生活など考えられない」という人も多いのではないでしょうか。中でも、iPhoneの新機種が発売される際は、その機能性の高さもあって、ニュースでも大々的に取り上げられますよね。いかに注目度が高いかがよくわかります。
2013年にNTTドコモがiPhoneの取り扱いをスタートして以来、大手3社による熾烈な競争が繰り広げられています。
お互いがライバル関係の中で、常に競合相手を意識した価格設定やサービス内容を打ち出してきました。
しかし、先日発売されたiPhone8では、3社の価格設定に大きな変化が見られたのです。
それでは解説します!
これまでは横並びであったはずのiPhoneの価格が、先日発売されたiPhone8ではキャリアごとに違っているのです。
その背景にあるのが、格安スマホの存在です。MMD研究所が今年9月に発表した調査によれば、格安スマホの利用者は12.9%。3月からの半年間で1.8ポイントも上昇しています。
格安スマホの利用者が増えている中、実は新製品の発売というのは、お客を取り戻すために最適のタイミングだといわれています。
今まで使っていた古い端末にSIMカードを差し込んで格安スマホにするという性質上、「そろそろ高性能の機種に切り替えたい」「通信量が多いプランに変更したい」「電池の劣化が進んで充電の減りが早い」といった理由などから、買い替えのニーズが出てくるのは当然です。
結局は、どこかのタイミングで大手3社に出戻ってくるわけで、まさに今回はそこがターゲットになった…というわけです。
つまり、大手携帯キャリア3社が今回「敵」と見なしたのは格安スマホで、「一度格安スマホに流れ、出戻ってくる人たち」をいかにとるかが、今回のそれぞれの価格設定に表れているということなんです。
プライシングは経営における1つの重要なカギとなります。「いくらで売るか」は大事だからこそ、ライバルに合わせて価格を変えるという決断も、時には必要です。
「競争相手が変われば価格が変わる」が経営の鉄則であり、それが生き残りにもつながるというわけですね。
ちなみに、3社の特徴を簡単に説明すると、KDDI(au)は安さで勝負。格安に対抗したかたちです。ソフトバンクはゲームや動画を楽しむニーズに対応して20GB/50GBといったデータ量を打ち出し、一番価格が高いNTTドコモは、長く使えば得する戦略を打ち出したうえで、それぞれ価格設定をしています。
コンビニ、電子書籍、そしてホテルも…?
競合に合わせて価格を変えるという事例は、最近でいうと外食産業で非常に顕著です。競争相手が「コンビニのお弁当」になった途端、ランチを中心に外食の値段が下がったのはご存じの通り。コンビニ弁当に合わせた価格にせざるを得なくなったからです。
電子書籍も、かつては紙の書籍より少しお得でお手軽を売りにしていたように思います。しかし圧倒的にマンガのニーズが高く、しかも暇つぶしで利用する人が多いことがわかってきた中で、その他の暇つぶしコンテンツに合わせた「コイン制」を導入し始めています。読みたい時に読みたい分だけ購入する、が主流になってきているのです。
そう考えると、今の日本のホテルの宿泊料は「1人いくら」が当たり前ですが、流行りの民泊のような「1部屋いくら」という考え方が今後導入されていく可能性は、大いにあるかもしれませんね。
「思わぬ競合の出現」はよくあること
ビジネスの世界では、思わぬ競合が出現することはよくある話です。そういう時に大事なのが、相手に合わせて変化できる対応力です。
経営判断を行ううえで、こうした価格の変更はとても有効です。経営者が持っておかなくてはいけない視点の1つですので、ぜひ頭に入れておいてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「格安スマホ」でした。ちなみに、格安携帯電話を扱う事業者は、一部の独立系を除いて、その多くが大手携帯キャリアの子会社や関連会社となっています。利用者をライバルにとられるくらいなら、自社の範囲内で囲っておきたいというそれぞれの意図が見え隠れするとともに、格安携帯電話がそれだけ脅威として認められてきているんだと、あらためて感じざるを得ません。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博